博物館の情報整理【CultureClub】

植物担当 小川誠

来年（平成10年2月2日）には、郵便番号が新しく7桁になります。住所録の郵便番号をいちいち調べて変更するのはたいへんですね。この新しい郵便番号簿はCD-ROMやインターネッ卜でデータが配布されていますので、コンピュータを使うと比較的楽に変更できます。住所録をコンピュータで管理すると、一覧表に印刷したり、葉書に宛名を印刷したりと自由に加工することができます。住所録のように、情報をためて管理したり加工したりといったことは、データベースの技術が利用されているわけですが、そのやり方は博物館の情報整理にも活用されています。

標本の情報整理

徳島県立博物館には、植物や化石の標本のような資料がたくさんあります。例えば、植物標本では未整理を含めて約18万点の標本が収蔵されています。これらの標本は、収蔵庫に科ごとにまとめられ、科内は学名のアルファベット順にという具合に分類群順に並べて収められています（図1左）。これは多くの標本庫で行っている収蔵法ですが、このような収蔵法なら種ごとに標本がまとまっていますので、例えば、いろいろな場所で採集されたある種の標本を簡単に取り出し比較することができます。
ところが、徳島市の植物を調べてみたいといった場合、この方法では標本を探し出すことができません。標本ラベルの情報がデータベースになっていたら、瞬時に検索できます。徳島県立博物館では収蔵している全標本のラベル情報のデータベース化を行っています。寄贈や購入により受け入れたものは、台紙への貼付など、保存するための処理をした後でデータが入力されますが、私が採集したものは、採集した時点での記録をデータベース化し、後で同定して和名などの情報を加え、ラベルに印刷しています。さらに、それを標本データベースに流用しています。こうして作られたデータベースは、標本を検索するだけでなく、資料台帳や収蔵標本目録などにも使われています（図1右）。また、COMET（徳島県文化・学習情報システム）を通じて一般に公開されています。

こうしたデータベースを構築するのに、以前は汎用機（はんようき）という大型のコンピュータを使って、それぞれの目的に応じてプログラムを組んでいました。ところが、それではプログマーでなければ改良できませんし、改良のためにはお金もかかります。今では、市販されいるパソコン用のソフト（ファイルメー力ーpro ver.3.0）を使ってデータベースを管理するようになりました。これだと、誰でも手軽にできて便利です。

図 1 左 。植物標本の収蔵の様子。右 資料の受け入れか ら収蔵までの標本と情報の流れ。

写真の情報整理

野外に調査に出かけた時に撮影した植物のスライドがたくさんありますが、この整理もやっかいです。「ヤマザクラの写真を貸してほしい」といった要望があっても、このスライドの山からヤマザクラの写真を探し出すのは時聞がかかリます。
最近ではPhotoCDという便利なものがあり、スライドを写真屋さんに出すとCD-ROMにしてくれます。PhotoCDのよい点は、デジタル化してしまいますので、簡単に写真の画像をパソコンヘ取り込めることです。一度デジタル化してしまえば、スライドと違って画質が劣化してしまうことはないので、長期保存を目的としている博物館では、写真の保存法としても注目されています。先の標本データベースと同様にファイルメー力ーProを使って作った植物写真データベースに画像ファイルを取リ込みます。一枚一枚取り込む画像を指定していてはたいへんなので、Apple Scriptというプログラムを使って一括してたくさんの画像を取り込んでいます。そしてその画像ファイル名に対応する植物の和名を入力しています。こうすると、先のヤマザクラの写真は簡単に探し出すことができます。

図 2 写真を使ったインターネットでの情報提供例 （http://wvvw.asahi-net.）

こうして作られた画像は、COMETやインターネットで公開されています（図2）。インターネットではHTML形式という特別な形式でページを作りますが、あらかじめ、画像データベースにその形式にテキス卜ファイルを出力させる工夫をしてありますので、別に作成された種の情報をくっつけて一括でHTML形式にすることができます。最近のデータベースソフトは機能が豊富なので、他のデータベースとくっつけたり、データをある形に整形するのは簡単です。また、こうして作ったデータベースを直接インターネットで公開することもできます。
先にお話ししたように、博物館で情報を管理するのには、特別なデータベースを使ってはいません。たくさんの人が普通に使っている、パソコン用のデータベースソフトなのです。これで、大量の情報が管理できるのかという心配がありますが、80万件のデータでも検索が瞬時にできました。
博物館で管理しているたくさんの情報も、いくつかの違ったものを複合させると面白い情報提供が可能です。そういった作業にはパソコンとデータベースソフトという道具はぴったりなのです。