博物館ニューストップページ博物館ニュース028(1997年8月15日発行)小松島市前山遺跡出土のシカ線刻埴輪片(028号館蔵品紹介)

小松島市前山遺跡出土のシカ線刻埴輪片【館蔵品紹介】

考古担当 高島芳弘

博物館の常設展示の「ムラからク二ヘ」のコーナーでは、前山遺跡出土の埴輪(はにわ)(人物埴輪1点、盾(たて)形埴輪1点、朝顔(あさがお)形埴輪1点、盾持ちの武人(ぶじん)埴輪1点)が目を引きます(図1)。前山遺跡の埴輪は、展示されている完全な形のものばかりでなく、破片も大量にあり、これらの中に含まれている円筒(えんとう)埴輪の形態や製作技法、形象埴輪の種類や量から判断して6世紀前半のものと考えられています。

図 1 前山遺跡の埴輪の展示風景

図 1 前山遺跡の埴輪の展示風景

最近、博物館では、前山遺跡の埴輪の破片を整理し直す作業を行っています。この作業の中で、新たな事実も分かってきました。まず、円筒埴輪と形象埴輪とでは円筒埴輪の量が多いのですが、形象埴輪では展示中の人物や盾形ばかりでなく、家形などのさまざまな形のものが混じっていることが確認できました。
また、線刻画のある円筒埴輪の破片が2点見つかりました。一見したところ、線刻画は四足獣であることが分かります。1点(図2)は円筒の一番上の部分の破片で、鋭利(えいり)な工具によって胴体が描かれた後に四足が表現されています。胴体は1本線で頭部から後ろ足にかけてゆるやかな弧状に描かれ、角(耳? )と後ろ足はほぼ平行な線で表されています。前足の1本と顔の部分は欠けています。他の1点も円筒の破片で、図2の破片より太い線で描かれています。

図 2 シカ線刻の円筒壇輪 。

図2シカ線刻の円筒埴輪片。

今回見つかった埴輪片の四足獣は、いったい何を表しているのでしょうか。絵の描かれた円筒埴輪の例は数少ないのですが、描かれている場合、シ力と船が画題として多く取り上げられています。シ力の表現には、栃木県の塚山古墳出土品(図3-1)のように輪郭(りんかく)の線を描き、からだを写実的に表したもの、岡山県の西の平古墳(図3-2)、 法伝山古墳出土品 (図3-5)のように簡単な線刻の組合せだけで表現したものなどがあリます。前山遺跡出土の埴輪片の四足獣は、頭部の表現方法が岡山県の法伝山古墳の出土品に、胴体や四足の表現方法が岡山県の西の平古墳の出土品に、それぞれ最も近いようです。尾が強調されていないことを考えあわせると、この四足獣はシ力の可能性が高いと思われます。

図3 円筒埴輪に刻まれたシカ(辰巳,1992を一部改変〕

図3 円筒埴輪に刻まれたシカ(辰巳,1992を一部改変〕

シ力は弥生土器や銅鐸(どうたく)に多く描かれています。これは、弥生時代にはシ力が神聖視されていたからだという指摘もあります。円筒埴輪に描かれる画題としてシ力が取り上げられたのは、古墳時代になってこの考え方がまだ残っていたからではないかと思われます。

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