博物館ニューストップページ博物館ニュース030(1998年3月25日発行)守住貫魚についての資料(030号CultureClub)

守住貫魚についての資料【CultureClub】

美術工芸担当 大橋俊雄

当館に最近はいった、守住貫魚、(もりずみつらな)に関する資料を紹介します。貫魚(1809-1892)は住吉派の絵師で、江戸後期に徳島藩に抱えられ、明治時代には内国絵画共進会で受賞し、帝室技芸員に選ばれました。当資料は模写、画稿、粉本(ふんぽん)など39件で、内訳は別表のとおりです。体裁は、未表装の巻物が大半で、1枚ものや冊子も若干ふくまれています。

これらの資料は、出所がはっきりしませんので、関係のない資料があとから混じった可能性もあり、注意が必要です。貫魚の署名や印があったり、彼の画風をしめすものが多いのですが、なかには署名などがなく筆者がはっきりしないもの、署名や年記から無関係と思われるものも含まれています。どの資料が貫魚に結びつくかは、今後さらに調べなければなりません。

こうした点を考慮しながら、注目される資料を二、三採り上げてみましょう。まず『関ヶ原合戦下』1巻は、狩野典信(かのうみちのぶ)の描いた関ヶ原合戦絵巻を、紙の地に墨で簡略に写した巻物です(図1)。巻末に下のような奥書があります(図2)。

          榮川院法印典信圖
天保四巳十月廿九日夜
          守住輝美寫之花押

図1「関ヶ原合戦 下」

図1「関ヶ原合戦 下」

図2 同奥書

図2 同奥書



貫魚は、はじめ徳島藩の御用絵師渡辺広輝に学び、輝美と名のります。そして天保3~4年(1832~33)ごろに江戸の住吉広定(ひらさだ)に入門したとされています。『関ヶ原合戦 下』は、住吉家に入門する前後の時期に写されています。
興味深いのは、貫魚がかけ出しのころに狩野派の作品を写していることです。御用絵師だったときの彼は、しばしば江戸狩野を思わせる作品を描いていますので、狩野派を学んでいたのは間違いありません。しかし彼の伝記類は、その点になぜか一言もふれていません。彼は住吉派ですので、ちがう流派に学んだことを伏せておきたかったと思われます。

貫魚がなぜ、どのようにして狩野派を学んだのかまだ明らかにされていません。この問題は、住吉派をとりまく当時の状況や、同派と狩野派の関係、藩絵師のあり方などと関連しますので、とても大切です。

次に、『草花写生』 12巻を見てみましょう。これは12ヶ月を1巻ずつに割りあて、1巻につき2、3種類の草花を描いた巻物です(図3)。 どの巻も、はじめの方に草花が少し描かれ、うしろの方はほとんど余白ですので、時間をかけて描きついでいくつもりだったのでしょう(12月のように、まったく白紙の巻もあります)。草花は、一度写生してからでいねいに清書しなおしています。細い墨線でかたちをとり、淡彩をほどこすものとほどこさないものとがあります。
 

『草花写生』には署名や印がありませんし、線や色づかいも後で述べるように普通の貫魚画とは大きく遣います。しかし「弘化丁未」「嘉永二年」の年記や、採集地の注記などがあリ、その筆跡からやはり貫魚が描いたと考えられます。

貫魚がたびたび風景を写生したことはよく知られています。しかしさまざまな草花を、葉の一枚一枚から根のつき具合までていねいに写していたことは知られていません。御用絵師をしていたころの貫魚は、やや硬質の描線をつかつて作品を描き、どこかきまじめな印象があリました。しかしこれらの草花は、ずっと自由な線であらわされ、色彩も清新です。貫魚の別の一面がうかがえる資料といえましょう。

図 3 『草花写 生』 よ り

図 3 『草花写 生』 よ り

以上のほかに当資料には、師である渡辺広輝が描いた仙洞院修学院行幸絵巻(個人蔵)の写し、阿波国文庫にあった鶴ケ岡八幡宮宝物図巻の写し、国瑞彦験記の下絵など、注目される資料がありますが、別の機会に紹介したいと思います。(学芸員:美術工芸担当)

■守住貫魚関係資料内訳

1 時代不同歌合 3巻 紙本白描
2 関ヶ原合戦巻 1巻 紙本淡彩
3 関ヶ原合戦下 1巻 紙本墨画
4 笈之図麻植郡山崎村千手院蔵 1巻 紙本淡彩
5 十二支 1巻 紙本淡彩
6 修学院御幸巻巻三之内抜写仙洞帝文政七年 甲申十月 1巻 紙本白描
7 御遷幸安政二年十二月日 2巻 紙本白描
8 女官服五十九 2巻 紙本着色
9 銭形屏風写 1巻 紙本着色
10 蝦夷弥具 1巻 紙本着色
11 舞扇之画 1巻 紙本着色
12 三十六歌仙図* 1巻 紙本墨画
13 職人歌合之絵 3巻 紙本白描
14 百馬 全 1巻 紙本墨画
15 百鶴 1巻 紙本着色
16 狂獅子全 1巻 紙本淡彩
17 鶴岡八幡宮宝物 1巻 紙本淡彩
18 鶴岡八幡宮神宝 政子前奉納官服 1巻 紙本着色
19 雅楽器図* 1巻 紙本着色
20 群禽図* 1巻 紙本墨画
21 群禽図* 1巻 紙本墨画
22 廃物武器燈籠 1巻 紙本着色
23 大和山水 1巻 紙本着色ほか
24 雲谷山水抜写 1巻 紙本淡彩
25 画譜縮図 1冊 紙本墨画ほか
26 神酒御頂戴* 1巻 紙本白描
27 国瑞彦験記御家大阪冬夏両御陳 壱弐参 1巻 紙本淡彩
28 草花写生 12巻 紙本淡彩ほか
29 短刀写 1巻 紙本着色
30 太刀刃物 1巻 紙本着色ほか
31 公家琴棋書画図* 1巻 紙本淡彩
32 鞍障泥図* 1巻 紙本淡彩
33 轡図* 1巻 紙本淡彩
34 和泉式部・殷富門院図* 3枚 紙本着色ほか
35 小禽図* 2枚 紙本着色
36 楼門図* 1巻 紙本着色
37 石燈籠図* 1枚 紙本墨画
38 福富草紙* 1巻 紙本淡彩
39 福富草紙 2巻 紙本淡彩
*は当館でつけた資料名です。

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