博物館ニューストップページ博物館ニュース127(2022年6月15日発行)足踏脱穀器の改造から生まれた道具 茶さばき機127号館蔵品紹介)

足踏脱穀器の改造から生まれた道具 茶さばき機【館蔵品紹介】

民俗担当 磯本宏紀


図1は、茶さばき機という名称の、阿波晩茶(あわばんちゃ)の製造に使われる道具です。

図1 茶さばき機(当館蔵)

図1 茶さばき機(当館蔵)


那賀町(なかちょう)な鮎川(あゆかわ)地区で使われていたものです。阿波晩茶は、夏の茶葉を漬け込み、発酵(はっこう)させて作るお茶で、徳島県の特産品としても知られています。摘んできた茶葉をゆで、擦(す)り、桶(おけ)に漬け込んだ後、取り出し、天日で干して作ります。

茶さばき機は、この工程の内、茶葉を桶から取り出す際、ほぐすのに使います。茶さばき機をベルトで発動機につなぎ、その動力により内部のドラムを回転させます(図2)。茶さばき機内部のドラムには、突起状になった鉄棒が取り付けられています(図3)。これが回転することで、茶葉をほぐします。ここまでで、勘(かん)の良い方は「あの道具」によく似ていると気づいたかもしれません。実は、この茶さばき機は、稲扱(いなこき)用の足踏脱穀機(図4)を改造したものです。足踏脱穀機は、明治期に発明され、稲用の脱穀器として全国に普及していった道具です。広く流通していた足踏脱穀機の改造を考案したのが、那賀町の大工でした。結果的に、茶さばき機は、那賀町域の阿波晩茶製造農家にだけ普及していきました。

図2 茶さばき機による作業(2019年7月、黒川仁美氏撮影)

図2 茶さばき機による作業(2019年7月、黒川仁美氏撮影)

図3 茶さばき機内のドラム(図1の部分拡大)

図3 茶さばき機内のドラム(図1の部分拡大)

図4 足踏脱穀機(当館蔵)

図4 足踏脱穀機(当館蔵)

 

茶さばき機が地域限定的に普及した理由は、次のようなものです。
①茶さばき機の需用が限定的:阿波晩茶の生産農家が少ない
②ほどほどのコストで、ほどほどの労働負荷軽減:生産農家にとって、阿波晩茶は副次的な生産品
③足踏脱穀機の普及:簡単に応用できる技術と道具の存在

地域限定的に生産される阿波晩茶生産農家の総数が少ないため、メーカーが機械開発に乗り出すこともなく(①)、阿波晩茶生産農家の多くは、稲、ゆず等の栽培を並行して行っているため、阿波晩茶の生産にだけコストをかけられず(②)、一方で身近に応用できる技術と、改造を手助けしてくれる職人が偶然いた(③)という背景がありました。


 

カテゴリー

ページトップに戻る