箱廻し用具【館蔵品紹介】
民俗担当 庄武憲子
「箱廻(はこまわ)し」は、街角や路傍で浄瑠璃(じょうるり)のさわりなどが演じられる、徳島に特徴的な大道芸のひとつでした。
図 1 阿南市の人形遣いが使用していた三番愛人形と夷人形。また人形を入れ運ぶ橿と天秤棒
大きな箱ふたつに人形を数体入れ、天秤棒(てんびんぼう)でかついで、村から村を旅して歩き、この箱と天秤棒の即席舞台に人形を立て、義太夫を語りながら少ない人形でたくみに、「傾城(けいせい)阿波の鳴門」や「太功記(たいこうき)十段目」などの人気由を演じて回ったようです。
なかでも正月は、家々の門に神が訪れて祝福するという信仰を背景に、三番叟(さんばそう)や夷(えびす)などの祝福人形を操り、家内安全、五穀豊穣(ごこくほうじよう)を各戸にことほいで回リました。神棚を拝んでから三番望を廻し、最後に夷人形の手で家の子どもの頭をなでて祝福したり、井戸の水神や、かまどの荒神のまえで厄払いをかねて人形を廻すところもあったそうです。祝福を受けた家々では、お礼に餅などを渡していました。
図2 三好郡三好町で使用されていた三番聖人形と夷人形。夷は初代天狗久作。
また、一年の収穫を祝う村々の秋祭りには、この「箱廻し」が何組かあつまり、神社の境内で芝居をすることもありました。
このような芸能は、昭和20年代~30年代ぐらいまで残っていたようですが、現在ではみることができなくなりました。
図3 箱廻しの様子を再現したところ。
図4 正月、魚村で夷人形が操ら れている様子。
当館ではこの「箱廻し用具」やそれに関係した写真やテープを収蔵しており、一部を平成9年11月26日(水)~平成10年2月15日(日)の問、部門展示室(人文)にて展示しています。