スーパーマーケット博物学【食卓博物館】
動物担当 田辺力
スーパーマーケッ卜で売っている生きものを観察しましょう。私たちが日頃、食べている生きもの(おかず)もじっくり観察してみると、なかなかおもしろいものです。観察に集中すると、見なれたものでも生き生きと見えてきます。今回とりあげるのはジャノメガザミとアサリです。どちらもおいしいですね。
ジャノメガザミ
ジャノメとは「ヘビ(蛇)の眼」の意味で、甲らにある目玉模様からきています。徳島で売っているガザミには数種類ありますが、ジャノメガザミは甲らに3つの目玉模様をもつので、簡単に見分けることができます(図1)。
図 1 ジャノメガザミ。
ガザミのなかまは「渡リガ二」と呼ばれるように、泳いで移動することで知られています。泳ぐことは体の構造にしっかりと現れています。5対ある足の最後の対は平たくなっていますが、ガザミのなかまはこの平たい足をこいで泳ぐのです。力二は一般に横に歩きますが、ガザミのなかまは泳ぐときも横向きに泳ぎます。
では、他の足も見てみましょう。最初の足はハサミになっていて、食べものをはさんだり、ちぎったりするのに使います。第2~4番目の足は歩くのに用います。このように足の構造がうまく分業されていることがわかります。
西表(いりおもて)島のマングローブ林でガザミが泳ぐのをみたことがあります。横向きに泳ぐ姿にはなかなか愛嬌(あいきょう)がありました。
アサリの模様
アサリには模様がついていますが、その模様はひとつひとつ違っています(図2)。ここではなぜひとつひとつ違っているのかについての一つの説をご紹介しましょう。
図 2 アサリの模様
アサリは鳥に食べられますから、アサリにとっては鳥に食べられにくい模様をもつことが有利になります。もしアサリの模様がみな同じ黒一色だとしましょう。そうすると鳥は「アサリは黒い貝」というイメージをもつことができます。鳥はアサリを探す時、「黒い貝」というイメジでアサリを効率よく探すことができます。ここで、黒いアサリのなかにモザイク模様のアサリが現れたとしましょう。このモザイク模様のアサリは、「黒い貝」ではないという理由のために鳥によってアサリとは見なされず、食べられる機会が減ることが予想されます。要するに回りのアサリとは異なる模様をもつことが鳥に食べられる機会が減って有利になるというわけです。まさに、この理由のためにいろいろな模様をもったアサリが出現し、結果として今のようにひとつずつの模様が異なるようになったというわけです。
普段、なにげなく眺めていたアサリの模様にも、こういう鳥との食べる・食べられるの関係や、まわりのアサリとの関係が反映されているらしいのです。同様に同じ種類でも模様が1匹ずつ異なる例は、他の貝や毘虫、クモヒトデなどでも知られています。