博物館ニューストップページ博物館ニュース040(2000年9月16日発行)1500万年前の魚の化石-ミヤノシタサッパ-(040号速報)

1500万年前の魚の化石-ミヤノシタサッパ-【速報】

動物担当 佐藤陽一

鳥取市のすぐ南に位置する岩美郡国府町宮ノ下(いわみぐんこくふちょうみやのした)の新第三紀中新世(しんだいさんきちゅうしんせい)中期の地層からは、たくさんの魚類化石が産出します。魚類化石の産地としては、ここは日本有数の場所です。中でも多いのがニシン科の化石で、この度、それがサッパ属の新種であることがわかりましたので、ご紹介します(図1)。学名はSardinella miyanoshitaensisと付けました。これは宮ノ下のサッパという意味で、だから和名もミヤノシタサッパとしました。

図1 ミヤノシタサッパの完模式標本(福井県立恐竜博物館所蔵)。分類学上の本種の基準となる標本です。

図1 ミヤノシタサッパの完模式標本(福井県立恐竜博物館所蔵)。分類学上の本種の基準となる標本です。

サッパというと、皆さんはあまりなじみがないかもしれませんが、日本の内湾域(ないわんいき)ではごく普通にみられる魚です。瀬戸内海に面した岡山県では、酢漬けにしたものをママ力リと呼び、珍重(ちんちょう)しています。 徳島県内でもスーパーや土産物店で売られているのを見かけます。ミヤノシタサッパは、種こそ違いますが、このサッパと同じ仲間です。

この化石種を特定するのに、ずいぶんと苦労しました。お腹(なか)に稜鱗(りょうりん)という鋭(するど)い棘(とげ)をもった特殊な鱗(うろこ)があることや、体側(たいそく)の鱗に独特の「へ」の字型の模様(もよう)があることなどから、すぐにニシン科の魚だとはわかったのですが、この後がなかなか進みませんでした。全世界の現生のニシン科の中には、5つの亜科に56属180種も含まれており、これらの骨格と比較しないと最終的に種を決めることができなかったためです。

そこで図1のような全身丸ごとの状態で産出している化石だけでなく、骨がバラバラに散(ち)らばった化石も丹念(たんねん)に調べ(図2)、それらを、顕微鏡(けんびきょう)の下で、解剖(かいぼう)した現生種や文献の記載(きさい)と比較したりして、やっとサッパ属であると特定し、さらに現生種との違いを見つけました。その結果、化石のサッパでは、口の中にある内翼条骨(ないよくじょうこつ)という骨に歯板(しばん)が発達してることや、体側鱗(たいそくりん)の微細構造(びさいこうぞう)が異なることがわかり、昨年12月に新種として発表しました。

図2ミヤノシタサッパの副模式標本のひとつ。(国立科学博物館所蔵)。化石魚の研究には、このような個々の骨を観察できる、1個体がバラバラになった標本も重要です。

図2ミヤノシタサッパの副模式標本のひとつ。(国立科学博物館所蔵)。化石魚の研究には、このような個々の骨を観察できる、1個体がバラバラになった標本も重要です。

おもしろいのは、サッパ属の中で、この化石のサッパともっとも似ている種は、現在日本の回りにいるサッパではなく、南太平洋の熱帯の島にいるマルケサスサッパ(仮称)だったことです。ミヤノシタサッパのいた中新世中期(ちゅうしんせいちゅうき)の日本列島は、現在とは様子がかなり異なり、中国大陸のすぐ地先(じさき)に生じた、小さな島々にすぎませんでした。当時は、かなり暖かい海が広がっていたようです。場所によってはマングローブが生えていたことから、現在の沖縄のような亜熱帯的な気候に近かったと考えられています。化石種のミヤノシタサッパと現生種のマルケサスサッパは、約1500万年の時を隔ててともに似たような気候条件の場所にすんでいたようです。

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