太布織り技術の伝承と創造への試み【速報】
民俗担当 磯本宏紀
去る1月14・15目、木頭村出原では太布織製造技術保存伝承会(以下保存会)の皆さんによって力ジ蒸しの作業が行われました。今回は、この保存会の活動を紹介しましょう。
なんでも、この1年間に使うだけの太布材料となる力ジの樹皮をとるのがこの日の作業だそうです。早朝、保存会で管理する力ジ畑に出て力ジを刈り、高さ2メートル程もあるコシキで2時間ばかり蒸します。蒸し上がると今度はオ二力ワ(表皮)を剥き、それを灰汁で煮ます。それから、少し冷やし、籾殻をまぶしてから足で踏み、槌でたたいて樹皮を柔らかくします。いったん籾殻やオ二力つを洗い流すため、川で流水につけるところで、この2日間の作業は終わります。この日ばかりは保存会のメンバ以外にも地元からのボランティアが多数参加し、また報道関係者や研究者の方々も訪れ、作業も活気づいていました。これを3日程おいた後、干して外気で凍らせ、繊維を柔らかくするわけです。
図 1 籾殻をまぶして踏む
図 2 流水につける
地元の有志の方で構成される保存会は、ふだん、毎週月曜日に木頭村出原の太布庵に集まり、力ジの樹皮糸を撚り、地機を使って太布を織っています。ところで、この保存会は、1970年に徳島県無形文化財技術保持者に指定された故岡田ヲチヨ氏の技術の継承を目指して、太布織りの技術や製品について目下模索中とのこと。岡田氏は、明治生まれの女性の中でも特に太布織りに秀でた方だったようです。保存会のメンバーの中には、生活の中で、太布を織ったという経験のある方はいません。しかし、太布織りの技術を学び、現代の太布を織っていこうとする方々です。平成13年に新築された太布庵には、岡田氏の織った反物が保管されています。「この糸の細さと織りのやわらかさが出せない」とは会長の中川清氏の談。硬く丈夫な糸で織る太布織りならではの難しさがあるそうです。
図3 太布庵につどう
そんな中、保存会では京都西陣から太布生地の発注を受けていますし、太布を藍で染めるという試みも進められています。また、平成13年10月には徳島市まで出向き、野外での太布織り実演も行いました。伝統技術を学び、そこからさらに発展させていこうという試みです。今後も太布織りの創造力と発展性には注目していきたいですね。