パラブゾシア -世界最大のアンモナイト-【館蔵品紹介】
地学担当 両角芳郎
中生代の海で繁栄したアンモナイトは、形態も多種多様ですが、大きさも変化に富んでいます。しかし、実際に見つかる化石や博物館などに展示されている標本は、殻の直径が10~20cm程度のものが多いため、2m近くにもなる大きなアンモナイトがいたことはあまリ知られていません。
これまでに見つかったうちで世界最大のアンモナイト化石は、ドイツ北西部,ウエス卜フアリア地方のミュンスター近くの上部白亜系から産出したパラプゾシアParapuzosia seppenradensisだと言われています。この化石は、殻が保存されている部分の直径が約1.8mありますが、住房(軟体部が入っていたいちばん最後の大きな部屋)のほとんどがこわれて残っていないので、もし完全なら直径2mをはるかに越える大きさだったと考えられます。
この化石はとても有名で、海外の大きな自然史博物館にはそのレプリ力を展示しているところがいくつかあり、人気の的になっています。当館では今年(2003年)の秋に企画展「アンモナイトのすべて(仮題)」を開催する計画になっていたため、それに向けてこの世界最大のアンモナイトのレプリ力をぜひ手に入れたいと考え、数年前からいろいろなルートで可能性を打診してきました。しかし、入手の目途はまったく立ちませんでした。
ところが、2001年の暮れになって、ロンドン在住のある日本人ビジネスマンを通じて、幸運にもこのレプリ力が入手できそうだとの知らせが届きました。このアンモナイ卜の原標本はドイツのウエストファリア自然史博物館に収蔵されていますが、ドイツでのレプリ力製作や輸送等にはいろいろな困難が伴うため、同博物館から特別許可をもらい、ロンドン自然史博物館にあるレプリ力から型取りして製作したレプリ力を徳島に納入することにしてはどうかとの提案でした。レプリ力のレプリ力とはなるものの、こ機会を逃せば念願の資料を手に入れるのがむずかしくなると考え、その方法でのレプリ力製作をお願いしました。昨年8月に博物館に届いて梱包を開けたとき、巨大なアンモナイトの存在感に圧倒されました。このレプリ力はアンモナイトの片側面のレリフ状標本ですが、ロンドン自然史博物館の保存修復部門の専門スタッフによって製作されたもので、よくできています(図1)。
図 1 パラプゾシア(複製) 標本の左右の長さ約2m
実は、このアンモナイトのレプリ力を日本で最初に入手したのは林原自然科学博物館(岡山市)で、おそらく当館が2番目です。林原自然科学博物館はまだ建設準備中なので、今年の軟に当館の企画展で展示すれば「本邦初公開!」になると思っていましたが、昨年9月に東京の臨海副都心に林原自然科学博物館ダイノソアファク卜リがオープンし、そこにこのアンモナイトが仮展示されました。残念ながら先を越されてしまいましたが、徳島初公開となるすばらしい標本であることには変わりないので、秋の企画展での展示を楽しみにしていてほしいと思います。