タンポポ調査が終わりました【CultureClub】
植物担当 小川誠
2009年と2010年の春に行われた「タンポポ調査・西日本2010」が終わりました。たくさんの方々に協力をいただき、さまざまな成果を得ることができました。徳島県での調査の事務局を担当した者として、タンポポ調査を振り返りながら、その結果について報告します。
詳しくはタンポポ調査の解説書(小川誠著「徳島の自然と歴史ガイド6 みんなで調べた徳島のタンポポ」徳島県立博物館、2011年3月発行)をご覧ください。
意外とわかっていないタンポポのこと
筆者が、タンポポ調査実行委員から調査に参加しないかと声をかけられた時、一番最初に思ったのは、「これは困ったな」ということでした。なぜなら、1990 年に出版された徳島県植物誌にはヤマザトタンポポが記録されていますが、このタンポポは詳しい図鑑にも載っておらず、いったいどんなものかわからなかったからです。そこで、2007 年から2008 年にかけて兵庫県や岡山県のタンポポを調べに行きました。
また、今回は四国や九州も調査範囲に含めることになったのですが、この地域のタンポポはさらに複雑で、以前、名前は付けられたものの、その実態がわからないタンポポがたくさんありました。身近な花であるタンポポですが、意外とわかっていないことが多い難しい植物なのです。
タンポポ調査とは
タンポポ調査とは、1970年代に始まった市民の手による環境調査です。当時はタンポポの総苞(そうほう)の反り返り具合により、外来種と在来種を区別して、その割合を環境指標として、都市化の度合いを調べるものでした。市民が中心の調査ということで、タンポポの分類にはあまりこだわらず、外来種と在来種が判別できれば良いとか、結果の精度にはこだわらず、参加することに意義があるという啓蒙(けいもう)的な調査という位置づけをされることもあります。
変化するタンポポ調査
その後、研究の進展により、外来種と在来種が雑種を作っていることがわかり、総苞の反り返り具合だけでは、どちらなのか判別することができなくなりました。また、調査の地域が広がるにつれ、タンポポの種類が増えたことも、外来種と在来種の区別のむずかしさに拍車をかけました。
そのため、タンポポの分類に関する知識や花粉を観察するための顕微鏡などの道具が必要となり、市民が中心だった調査から、市民と専門家が協力して行う市民参加型調査に変化してきました。それにより、19府県という広範囲での調査が可能となり、かつ精度の高い調査結果を得ることができるようになりました。
タンポポ調査で明らかになったこと
今回の調査により、今まで混沌(こんとん)としていた西日本のタンポポの種類が明らかになってきました。この地域には、カンサイタンポポ、オオズタンポポ(仮称)、オキタンポポ、セイタカタンポポ、トウカイタンポポ、シナノタンポポなどの在来種(二倍体)や、クシバタンポポ、ヤマザトタンポポ、ツクシタンポポ、モウコタンポポなどの黄花型在来種(倍数体)、それに加えて、キビシロタンポポやシロバナタンポポなどの白花型在来種(倍数体)が分布していることも判明しました。さらに、セイヨウタンポポとアカミタンポポといった外来種、それらと在来種の雑種が分布していました。これらの中には、主要な図鑑でもほとんど取り上げられていない種もありますが、それぞれについて詳しい分布図を作成することができました。特に、カンサイタンポポは私たち徳島県民にとっては、どこに行っても普通に生えている種ですが、分布範囲は狭く、東瀬戸内海を中心とした限られた分布であることもはっきりしてきました(図1)。
図 1 カンサイタンポポの分布(小川,2011 より)
また、それぞれの在来種の割合を各府県で比較してみると(図2)、いくつかの特色があることもわかりました。例えば、徳島・香川両県では黄色のカンサイタンポポがほとんどですが、高知・愛媛両県ではシロバナタンポポがほとんどでした。同じタンポポでも、隣の県で種の構成が大きく異なっているという生物多様性がみなさんの力で浮き彫りとなりました。
図2各府県ごとのタンポポの割合(小川,2011 より)
従来環境指標として用いられてきた、外来種の割合は西日本全域では使うことができないことも明らかになりました。分布量の多い在来種はカンサイタンポポのような二倍体種なので、それが分布していない四国西部や中国地方西部では外来種の割合が高くなり、この指標が使えません。どのような環境指標を用いるのかは今後のタンポポ調査の課題となっています。
今回の調査では県内でも500名を越える参加者があり、たくさんの方々にご協力いただくことができました。この場を借りてお礼を申しあげます。そのかいもあって、徳島県が西日本で一番在来種の割合が高いという結果も出ています。将来、この値がどのように変化していくかも気になるところです。もし、今後もこのような調査があれば、ぜひご協力をお願いします。