博物館ニューストップページ博物館ニュース119(2020年6月25日発行)石灰岩植物~過酷な環境に生える植物たち~(119号情報ボックス)

石灰岩植物~過酷な環境に生える植物たち~【情報BOX】

植物担当 茨木靖

動物のように動き回ることのできない植物にとって、土壌(どじょう)の環境は、その生育に大きく影響します。特に石灰岩(せっかいがん)は、その特殊な性質から植物の生育に大きな影響を与えることが知られています。

石灰岩には、いくつかの大きな特徴があります。まず、岩が風化されにくいため、長期にわたって断崖絶壁(だんがいぜっぺき)を形成することが挙げられます。それらの露岩(ろがん)地は、直射日光を受け、昼夜ともに高熱化することが少なくありません。また、土壌の発達が悪く、保水性が悪いことから乾燥しやすいことが知られています。さらに、石灰岩から生成した土壌は、カルシウムが過剰に含まれる一方で、植物の生育に欠かせないカリウムやリンが不足しています。加えて、一般的な日本の土壌は弱酸性を示すのに対して、石灰岩は弱アルカリ性を示します。このように石灰岩地は、ふつうの植物の生育には適さない厳しい環境の土地であると言うことができます。

しかし、中には、石灰岩上に多く生え、他の種類の岩の上には少ないか、まったくみられない植物もあり“石灰岩植物”などと呼ばれます。

クモノスシダやイチョウシダ、ヨコグラノキなどが、これにあたります。また、この石灰岩地には、ケンザンデンダ、イワウサギシダ、そして、ムシトリスミレのように、遺存的な分布を示すものも見られます。これらは、かつての寒冷期に北方から四国まで南下し、広く生育していました。それが、後の温暖化によって、生育地が狭められ、こうした悪条件の場所に逃げ込んで生き残ったものと考えられています。つまり、石灰岩地では、その過酷な環境のために、他の植物がなかなか入ってこられないので、地史的な遺存植物が生き延びているようです。とくに、徳島県では、剣山(つるぎさん)や石立山(いしだてやま)のように、標高2,000m近い山に石灰岩が分布しており、独特の植物が生育しています。

図1石灰岩の露頭

図1石灰岩の露頭

図2ムシトリスミレ

図2ムシトリスミレ

 

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