博物館ニューストップページ博物館ニュース122(2021年3月25日発行)徳島県の恐竜化石の発見史(1993年~2020年)(122号CultureClub)

徳島県の恐竜化石の発見史(1993年~2020年)【CultureClub】

地学担当 辻野泰之

1.徳島県の恐竜時代の地層

徳島(とくしま)県の勝浦川盆地(かつうらがわぼんち)周辺には、白亜紀(はくあき)とよばれる恐竜が生きていた時代(約1億3000万~約1億年前)の地層が分布しています(図1)。その大部分は、海域で堆積(たいせき)した地層ですが、一部は、干潟や河川、湿地などを含む陸域で堆積した地層もあります。これらの地層からは、シダ植物や裸子(らし)植物、シジミ類やタニシ類などの貝類をはじめ、陸域で生息していた動植物の化石が多く産出します。

図1 勝浦川盆地周辺の白亜紀前期(約1億3000万 ~ 約1億年前)の地層

図1 勝浦川盆地周辺の白亜紀前期(約1億3000万 ~ 約1億年前)の地層

2.淡水生二枚貝トリゴニオイデスの発見

トリゴニオイデス(Trigonioides)は、絶滅した二枚貝の一種です(図2)。殻(から)の表面に肋(ろく)とよばれるV字状の筋(すじ)をもつのが特徴です。この二枚貝は、湖や湿地帯などの淡水域で生息していたと考えられています。このような場所は、恐竜やワニ、カメなどの動物の生息地に近く、それらの骨や歯などが化石としても保存されやすい環境です。そのため、トリゴニオイデスと恐竜化石は、しばしば一緒に産出します。
1993年、勝浦町の白亜紀の地層からもトリゴニオイデスが産出することが、学術論文で報告されました。これが、徳島県での恐竜化石発見のきっかけになります。

図2 淡水生二枚貝のトリゴニオイデス

図2 淡水生二枚貝のトリゴニオイデス

 

3.四国(しこく)初の恐竜化石の発見

1994年4月、高知(こうち)大学大学院生であった菊池直樹(きくちなおき)さんが、トリゴニオイデスをはじめとする二枚貝化石の調査のため、勝浦町を訪れました。この時に脊椎(せきつい)動物の一部と思われる化石が泥岩(でいがん)の中から採集されました。採集された化石は、高知大学で岩石から化石を取り出す作業(クリーニング)がほどこされ、植物食恐竜の鳥脚類(ちょうきゃくるい)イグアノドン類の歯の化石であることが判明しました(図3)。これが、四国で初めてとなる恐竜化石の発見となりました。図3 鳥脚類イグアノドン類の歯

図3 鳥脚類イグアノドン類の歯

 

4.22年ぶりの恐竜化石の発見

勝浦町でのイグアノドン類の歯の化石の発見後、徳島県立博物館は、高知大学や徳島大学などと共同で、1994年8月と2002年10月の2回にわたり、恐竜化石の探索(たんさく)調査を実施しました。残念ながら、これらの調査では、追加の恐竜化石を発見することはできませんでした。
しかし、2016年7月、阿南(あなん)市在住の化石愛好家である田上浩久(たがみひろひさ)さん、竜熙(りゅうき)さん親子が、勝浦町の山中で恐竜の可能性がある化石を発見し、それを当館に持ち込みました。調査の結果、竜脚類(りゅうきゃくるい)ティタノサウルス形類とよばれる大型の植物食恐竜の歯であることが分かりました(図4)。徳島県から22年ぶりの恐竜化石の発見でした。

図4 竜脚類ティタノサウルス形類の歯

図4 竜脚類ティタノサウルス形類の歯

5.恐竜化石含有(がんゆう)層(ボーン・ベッド)の発見

1994年と2016年に発見された恐竜化石は、どちらも地層中から抜け落ちた岩石(転石)から発見されたものでした。そのため、当館は、福井(ふくい)県立恐竜博物館や地元の化石愛好家などの協力を得て、2016年冬から断続的に恐竜化石を含む地層の探索調査を実施しました。その結果、2018年春に地層中から竜脚類ティタノサウルス形類の歯を発見することができました。この地層からは、恐竜化石の他にも、ワニやカメ、淡水生魚類などの骨や歯などの化石が多数採集されました。このことから、この地層を恐竜化石含有層(ボーン・ベッド)と判断し、このボーン・ベッドを集中的に発掘することにしました(図5)。

図5 大きく凹んでいる部分が、ボーン・ベッド(2019年11月撮影)

図5 大きく凹んでいる部分が、ボーン・ベッド(2019年11月撮影)

6.多数の恐竜化石の発見

2018年冬、発見されたボーン・ベッドについて、緊急発掘調査を実施しました。約2週間という短い調査期間、また手作業による地層の掘削(くっさく)にもかかわらず、獣脚類(じゅうきゃくるい)の脛(すね)の骨(図6)や竜脚類の歯などの恐竜化石を発見しました。また、2019年秋~冬には、約2ヵ月間、はじめて重機(ショベルカー)を導入した発掘調査を実施しました。この調査では、中国・四国地方では初めてとなる獣脚類(肉食恐竜)の完全な歯の化石(図7)が発見されました。2016年~ 2019年の約3年間の調査で、恐竜化石を含む約150点以上の脊椎動物化石が発見されています。

図6 獣脚類の脛の骨

図6 獣脚類の脛の骨

図7 獣脚類 (肉食恐竜 )の歯

図7 獣脚類 (肉食恐竜 )の歯

7.2020年以降の発掘について

2020年からは、複数の重機を使って、ボーン・ベッドの延長部分と推定される斜面の上部から掘削を開始しました(図8)。その結果、斜面の上部にある地層からもワニの歯やカメの甲羅(こうら)、種類不明の骨片などの脊椎動物化石が発見され、ボーン・ベッドが広域に拡(ひろ)がっていることを確認できました。今後、このボーン・ベッドを斜面上部から掘削していけば、より多くの恐竜化石が発見できると信じています。

図8.2018年~ 2020年のボーン・ベッドの発掘状況

図8.2018年~ 2020年のボーン・ベッドの発掘状況

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