博物館ニューストップページ博物館ニュース005(1992年1月23日発行)科学の目で文化財をみる(005号CultureClub)

科学の目で文化財をみる

保存科学担当 魚島 純一

はじめに

最近、ハイテクという言葉をよく耳にします。生活の中にも最先端の科学技術が入り込み、いろいろと便利になってきました。
最先端の科学技術とは縁遠かった考古学や美術史などといった文化財を取り扱う学問の世界にも、こういった新しい技術が取り入れられるようになり、いままでわからなかった多くのことが明らかになってきました。

博物館にもさまざまな研究機器があり、これらを使って、文化財をこれまでとは違った科学の目で調査研究しはじめました。
そこで、文化財の調査研究に使われている技術と、それらを使った調査でわかる新しいことがらについて、いくつか例をあげながら紹介しようと思います。

構造をしらべる

X線透過撮影装置は、いわゆるレントゲンとよばれるもので、サビにおおわれた金属製品のもとの形や、見えない部分の構造を知ることができます。

今から15年ほど前、埼玉県の稲荷山古墳から出土した鉄剣から115文字の金象嵌の銘文が発見されたのは、X線撮影の調査によるものです。

材質をしらべる

文化財を研究する場合、材質を知ることはたいへん重要なことです。材質は、製作技法や年代、産地を知る大きな手がかりになるからです。しかし、文化財は同じものが世の中に二つとないので、たとえ研究のためとはいえ、こわしたりキズつけたりすることは許されません。蛍光X線分析装置は、ものをキズつけることなく、それがどんな材料でつくられているかをしらべることができます。

この装置を使って、展示室に展示されている伝長者ヶ原1号銅鐸を分析したところ(図1)、表面に塗られている赤い顔料は、水銀朱とよばれる当時たいへん貴重とされていたものであることがわかりました。

図1 蛍光エックス線分析の様子

図1 蛍光エックス線分析の様子

見えないものをみる

赤外線TVカメラを使うと、ススやほこりなどで見えなくなってしまった文字や絵を見ることができます。
古い民家には、棟木に棟札とよばれる木の札が取り付けられていることがあります。棟札はほとんどの場合表面がススや油で真っ黒です。しかし、赤外線TVカメラで観察すると、肉眼では見えない文字がくっきりと浮かびあがります(図2)。棟札には建物を新築したり修理した日付などが書かれているので、建物の研究をするうえで貴重な資料となります。

図2 赤外線調査の様子

図2 赤外線調査の様子

昨年、鳥取県淀江町の上淀廃寺から発見された彩色壁画の調査で赤外線TVカメラが使われ、肉眼で見えている下書きのほかに、さらに精巧な上絵が発見されたことを記憶されている方もいらっしゃることでしょう。

おわりに

これまでは、経験を積んだ目で見ないと語りかけてくれなかった文化財が、いま新しい技術によって、さまざまな情報を提供してくれるようになりました。科学のおかげで、私たちは文化財という過去の人びとが残してくれた大切な遺産からより多くのことを学ぶことができるようになったのです。

しかし、どんなに技術が進んでも、実際に文化財を守り未来へ伝えていくのは、科学ではなく私たち人間であることを忘れてはいけません。

著者紹介

大阪府箕面市生まれ
奈良大学文学部文化財学科卒業
(保存科学担当)
専攻/保存科学
趣味/ドライブ、凧あげなど

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