博物館ニューストップページ博物館ニュース032(1998年9月15日発行)Q.中国の昔の青銅器では、彫刻の・・・(032号QandA)

Q.中国の昔の青銅器では、彫刻の象が鼻を高く上げてS字状に曲げています。なぜでしょうか?【レファレンスQ&A】

地学担当 亀井節夫

A まず象の鼻のことからお話しします。象の鼻は、人間でいえば上のくちびると鼻とがくっついたものなのです。たいへん不思議に思われるかもしれませんが、象から見れば、人間が2本足で立って歩く姿の方が、ずっと不思議と思っているに違いありません。両方とも、生物進化の産物なのですが、大昔の象の鼻が短かったことはご承知のとおりです。図1は、徳島市立動物園にランガとマリーが来たときに訪ねて、初対面の挨拶をしているときのものです。初対面のときは、人間の場合は手を差し伸べて握手しますが、象では手のかわりに鼻を使うのです。しかし、機嫌の悪いときや気の荒い象では、水を吸い込んでいて、いきなりかけられたり、打たれたりしますから、注意する必要があります。また、親しい人の間では、久しぶりに会ったときに「ヤァ、ヤァ」と手を挙げることがありますが、象の場合も同じようです(図2)。

ところで、質問にあったのは、紀元前2000年から同1000年のころの殷とか西周の遺跡から見つかる青銅器のことです。図3は、西周の遺跡から出土した青銅の斧(戚:せき〉ですが、確かに象が鼻を上げて曲げている様子でつくられています。このほか、青銅器の壷とか酒の杯の彫刻にも同じような象の姿をたくさん見ることができます。それらは祭祀に使われたもので、死んでからも、その人が先祖を祀り孝養を努めることを考えて、大きな漆塗りの盆の上にそうした容器を乗せて、墓に埋めていたとされています。

象が鼻を高く上げて曲げるのは、遠くからの匂いを嗅ぐ時のポーズです。哺乳動物は、一般に、匂いに敏感で、遠くから風が運んでくる匂いを嗅ぎ分けて周りの状況を知ります。アフリ力で、象の群れが森から出て道を横切るときには、大人の象たちが一斉に鼻を上げて周囲の匂いを嘆いで警戒する様子がよく見かけられます。祭祀の道具に、そのようなポーズの象の姿があることは、象にそのお祭りでの警護の役割をする意味があったと思われます。徳島でも、寺院や神社に行くと、いろいろな姿の象の絵とか彫刻を見ることがあリます。それらがどのようなポーズをしているのか、調べてみるのもおもしろいことです。

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