博物館ニューストップページ博物館ニュース034(1999年3月25日発行)カジカー20数年ぶりに生息を確認(034号速報)

カジカー20数年ぶりに生息を確認【速報】

動物担当 佐藤陽一

力ジ力(図1) という魚は一見ハゼのような姿をしていますが、別の仲間です。同類にはアユ力ケ(図2)というよく似た魚がおり、徳島県内にも生息しています。力ジ力は、かつて四国4県すべてに生息していたのですが、現在まとまった生息地としては、わずかに愛媛県の加茂川が残っているだけとなってしまいました。なぜ、このように減ってきたのか原因はわかっていませんが、確かなのはここ数十年の聞に起こった出来事だということです。いずれにせよ、人の活動が原因となっていると考えられます。

図 1 カジカ (体長 30.5mm)。 那賀川産の液浸標本

図 1 カジカ (体長 30.5mm)。 那賀川産の液浸標本

 

図2 アユカ ケ(体長 53.0mm)。那賀川産の液浸標本

図2 アユカ ケ(体長 53.0mm)。那賀川産の液浸標本

この力ジ力が、私たちの調査によって昨年夏に那賀川の下流(図3)から1個体だけ採集されました。県内におけるこれ以前のもっとも新しい記録は『徳島県魚介図鑑<淡水魚編>』(徳島新聞社)掲載の1975年頃に吉野川支流の鮎喰川で採集された個体の写真ですから、県内における記録としては、なんと20数年ぶりのことです。

図 3 那賀川のカジカ・アユカ ケの生息地。羽ノ浦町岩脇。

図 3 那賀川のカジカ・アユカ ケの生息地。羽ノ浦町岩脇。

実は以前から何とか生息を確認したいと思い、鮎喰川や吉野川の第十堰のあたりだけでなく、県南の海部川までずいぶんと捜したのですが、空振り続きだったのです。地元の方に聞くと「昔はいたけど、近頃見かけんなあ…」という答えばかリで、ほとんど諦めかけていたところ、やっと今回確認できました。

さて、この魚はたいへん興味深い魚で、一生を川ですごす型と、産卵は川でするが、子供はいったん海まで降(くだ)る型とがいることが以前から知られていました。前者が陸封型で、卵は大きく、子供は発生の進んだ状態で孵化(ふか)するのに対し,後者が回遊型で、こちらは卵は小さく、子供は発生のあまり進まない状態で孵化します。そしてこれらの型の違いは、実際は種の違いかもしれないと思われていました。ところが最近の遺伝学的研究によれば、それぞれの型はさらにいくつもの集団に分かれることがわかってきました。事はそれほど単純ではなかったわけです。

那賀川で採れた力ジ力は、水産庁養殖研究所の岡崎登志夫さんにDNAを分析してもらったところ、回遊型で、太平洋側の集団(小卵型とも呼ばれる)に属し、紀伊水道をはさんだ対岸の和歌山県産のものとほとんど同じであることがわかりました。当初、那賀川で採集された力ジ力は、琵琶湖産アユの放流に伴い移入されたものではないかと疑っていたのですが、どうもその可能性はなさそうです。なお、愛媛県加茂川産の力ジ力も同じ回遊型ですが、こちらは日本海側・瀬戸内海地域に分布する別の集団(中卵型とも呼ばれる)に属しています。同じ四国内でも、那賀川産と加茂川産とでは大きく異なっているのです。

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