博物館ニューストップページ博物館ニュース034(1999年3月25日発行)Q.数年前に中国で買ったこの化石、本物・・・号(QandA)

Q.数年前に中国で買ったこの化石、本物でしょうか?【レファレンスQ&A】

地学担当 中尾賢一

A 問題の“化石”は、ベルベットを敷き詰めた化粧箱の中に入っていて、見かけはたいへんりっぱです。また、“化石”そのものも、全身の骨がほぼ完全に残っているだけではなく、関節も全部つながっていて、なかなかよい標本のように見えます(図1)。しかしよく見ると、次のような不自然な点がいくつか観察できます(図2)。

 

図1 化粧箱に入った「化石」。化石の長さ17.6cm

図1 化粧箱に入った「化石」。化石の長さ17.6cm

 

図2 頭部から胸部にかけての拡大写真

図2 頭部から胸部にかけての拡大写真

1) 関節がつながった骨の化石は、泥などの細粒の堆積物に含まれていることが多い。ところがこの標本の骨のまわりは、粒の大きさが不揃いな砂岩とかモルタルのように見える。

2) “化石”の出ている面の裏側は黒っぽい泥岩のように見え、表側と見かけがかなり違う。

3) ふつう、化石の標本を作製するときには、骨の周囲の泥や砂はできるだけ取り除く。レリーフ状に仕上げるときも、骨が浮かび上がるように彫り込まれることが多い。しかし、この“化石”では、骨の周囲の砂は骨とともに盛り上がってる。
4) 骨をいくらよく見ても、骨組織特有の細かい構造は見あたらない。また、全体的に透明感があり一様に見える。骨の表面はツルツルしていて、一方向の細かいキズが無数に入っている。

よく検討した結果、この“化石”は完全に人間の手でつくられたものだと判明しました。実物の部分は全くない上、おそらく最初から人をだますためにつくられたものなので、模型とかレプリ力というよりは二セ物と呼ぶ方がふさわしいものです。モデルにしたのは、おそらく中生代三畳紀のKeichousaurus(貴州竜)という爬虫類(はちゅうるい)の化石でしょう。本物の貴州竜の骨格は、きめの細かい泥岩の中に入っています。

私が考えた作り方の手順はこうです(図3)。 まず、平らな岩石を用意し、片面に爬虫類の骨の形を合成樹脂で厚く盛り上がるように描きます(図3-1)。型を使えば簡単にできるでしょう。樹脂が固まったところで、モルタルを一面に塗ります(図3-2)。モルタルが固くなったら、樹脂が一面に現れるまで紙やすりなどで磨き続けます(図3-3)。磨き終わって乾いたところで、刺繍(ししゅう)で飾った化粧箱に収めます。こうすることで、このようなものが一つ完成しそうな気がしませんか?
この“化石”は博物館に寄贈していただきました。ふつう、こうしたものは博物館で積極的に集める対象にはなりませんが、いろいろな意味でおもしろいものであることも確かです。

図3筆者が推定したニセ貴州竜化石の作製方法。

図3筆者が推定したニセ貴州竜化石の作製方法。

ニセ化石はけっこう出回っているようで、いろいろなところで見かけます。タイプもさまざまです。化石を買って集める方はご注意ください。

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