博物館ニューストップページ博物館ニュース034(1999年3月25日発行)四季和歌図巻 狩野常信筆 1巻(034号館蔵品紹介)

四季和歌図巻 狩野常信筆 1巻【館蔵品紹介】

美術工芸担当 大橋俊雄

『新古今和歌集』に収める季節の歌8首を書き、それぞれに淡彩の絵をそえた図巻です(表1)。附属する『筆者目録』から、8人の公家が1首づつ書いたことがわかります(表2)。巻末には「常信筆」の落款(らっかん)と「藤原」の白文方印(図3)があり、木挽町(こびきちょう)狩野家の2代目で、幕府奥絵師(ばくふおくえし)であった狩野常信(かのうつねのぶ)(1636~ 1713)が絵を描いたと知られます。

図1ほのほのと春こそ空にきにけらし

図1ほのほのと春こそ空にきにけらし

 図2 むめの花にほひをうつす袖の上に

 図2 むめの花にほひをうつす袖の上に

 

図 3 落款・印章

図 3 落款・印章

 

公家の官職と序列を『公卿補任(くぎょうぶにん)』などで調べますと、目録とあうのは貞享元年12月から同3年10月(1684~ 1686)のあいだに限られます。作られた経緯はわかりませんが、最初の1首を書いた近衛基照(このえもとひろ)は、和歌をとくに好み、諸学に通じていましたので、彼をめぐって文芸上の環境ができていたと思われます。常信の絵は江戸狩野様式にもとづき、新日未のある図様ではありませんが、淡雅な味わいにあふれています。

なお、伊勢国津(つ)藩の藤堂(とうどう)家による書付が附属しており、かつて同家に伝わっていました。しかし、昭和8年(1933)には旧徳島藩主の蜂須賀家から売立にだされています。嘉永5年(1852)に両家は姻戚(いんせき)関係を結んでいるので、そのつてで譲られたのでしょうか。
落款:常信筆
印章: 「藤原」白文方印
品質:紙本墨画淡彩
法量:縦31.1cm 、横554.4cm
付属品:筆者目録1通、由来書付1通
 

表1収録和歌


ほのほのと春こそ空にきにけらしあまのかく山かすみたなひく
(巻第一 春歌上 後鳥羽院)
むめの花にほひをうつす袖の上に軒もる月の影そあらそふ
(巻第一 春歌上 藤原定家)
むかしおもふくさのいほりのよるの雨になみたなそへそやまほとときす
(巻第三 夏歌 藤原俊成)
いつしかと萩の葉むけのかたよりにそそや秋とそ風もきこゆる
(巻第四 秋歌 上崇徳院)
心なき身にもあはれはしられけりしき立沢の秋の夕暮
(巻第四 秋歌 上西行法師)
たった河(ママ)あらしや峯によはるらむわたらぬ水もにしきたへけり
(巻第五 秋歌 下宮内卿)
霜かれはそこともみへぬくさのはらたれにとはまし秋のなこりを
(巻第六 冬歌 藤原俊成女)
初雪のふるのかみすきうつもれてしめゆふのへも冬こもりけり
(巻第六 冬歌 藤原長方)

表2 筆者目録

一ほのほのと 近衛左大臣基照公
一むめの花 鷹司右大臣兼照公
一むかし思ふ 大炊御門前内相経光公
一いつしかと 清閑寺大納言照房卿
一心なき 今出川大納言伊季卿
一たった川 中院前大納言通茂卿
一霜かれは 久我大納言通規卿
一初ゆきの 烏丸大納言光雄卿

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