博物館ニューストップページ博物館ニュース126(2022年3月25日発行)四国で分布を拡大する外来昆虫(126号CultureClub)

四国で分布を拡大する外来昆虫【CultureClub】

動物担当 山田量崇

はじめに

生物はもともと自らの分布域を拡(ひろ)げようとする性質をそなえていますが、個々の移動・分散能力には限りがあり、また、山や海などの地理的な障壁(しょうへき)壁があるため、自由に分布を拡げることができません。しかし、近年問題となっている外来生物など、人間の活動が関与してその分布域を大きく変化させている生物がいます。なかでも、体が小さい昆虫には、交通機関と物資の移動に伴って他の地域へ侵入、定着する種(しゅ)が増えています。今回は、四国に侵入、定着した外来昆虫の分布拡大について、徳島県立博物館がこれまでに行ってきた調査を中心に紹介します。

本州四国連絡橋が与えた影響

本州四国連絡橋(明石海峡大橋(あかしかいきょうおおはし))・大鳴門橋(おおなるときょう)、瀬戸内しまなみ海道(せとうちしまなみかいどう)の完成に伴い、物流を取り巻く動向が大きく変化しただけでなく、四国内での外来昆虫の発見も増加しました。例えば、1996年に大阪府池田市で発見された東南アジア由来のヘクソカズラグンバイ(図1A)は、2006年に愛媛県松山市、2008年に徳島県東部で確認されました。侵入初期の記録が四国の東西で二分されていることから、瀬戸大橋と明石海峡大橋・大鳴門橋という2つのルートを経由して、それぞれ本州から侵入したことが示唆されています(加藤・山田, 2022)(図2)。同様の事例として、2000年に兵庫県西宮市(にしのみやし)で発見された北米原産(げんさん)のアワダチソウグンバイ(図1B)も、2004年に松山市と徳島市から同時に発見されたため、本州からの侵入経路が少なくとも2つ存在すると考えられています(Kato &Ohbayashi, 2009)。2種とも四国への侵入が本州四国連絡橋の交通に由来しており、大規模橋梁(きょうりょう)が外来昆虫の伝搬(てんぱん)において大きな影響を及ぼしていることがわかりました。

A,ヘクソカズラグンバイ;B,アワダチソウグンバイ;C,アルゼンチンアリ;D,クスベニヒラタカスミカメ

Aヘクソカズラグンバイ

Bアワダチソウグンバイ

Cアルゼンチンアリ

Dクスベニヒラタカスミカメ

 

図2.四国におけるヘクソカズラグンバイの分布拡大過程(2010–2015年)

図2.四国におけるヘクソカズラグンバイの分布拡大過程(2010–2015年).加藤・山田(2022)をもとに作成.黒丸は確認地点.

神戸・鳴門ルートが四国への侵入経路になっている事例として、2010年に徳島市で確認された特定外来生物*のアルゼンチンアリ(図1C)が挙げられます。徳島の個体群に神戸港からの由来が認められたのです(Inoue et al., 2013)。一方で、四国の他県からはだ確認されていません。
このように徳島が近畿(きんき)地方との経済交流がさかんで流動が多いことから、外来昆虫にとって徳島は四国の玄関口の一つと言えるかもしれません。

*外来生物のうち、生態系や人、農林水産業へ被害を及ぼすもの、またはそのおそれがあるものの中から、環境省が指定した生物のこと。

分布の拡がり方

四国へ侵入した外来昆虫はどのような拡がり方をするのでしょうか。例えば、中国原産のクスベニヒラタカスミカメ(図1D)は他の外来昆虫と比べると拡散速度がきわめて早いです。その背景として、爆発的な繁殖力(はんしょくりょく)と自力飛翔(ひしょう)による小規模分散に加え、交通機関に便乗して跳躍的(ちょうやくてき)に分散をしている可能性が考えられました(山田, 2020)。すなわち、侵入場所から同心円状(どうしんえんじょう)に徐々に拡がるのではなく、飛び石的に拡がるわけです。

一方、自力分散する外来昆虫にも急速に拡がったものがいます。2001年に淡路島と神戸市で見つかったトガリアメンボ(図3)(台湾、中国南部、東南アジアなどが原産)は、2003年に四国に侵入しました。本種には、翅(はね)をもたない無翅型(むしがた)と翅をもつ長翅(ちょうしがた)が現れます。長翅型の出現時期に淡路島から鳴門海峡を越えて四国に侵入、徳島県三好市(みよしし)まで一気に拡がりました。こうした短期間での拡大には、気象条件も影響しているようです(大原・林, 2004)。

図3トガリアメンボ(大原賢二氏提供)

図3トガリアメンボ(大原賢二氏提供)

突発的な侵入

侵入経路不明の外来昆虫が徳島で突然発見されたこともありました。2015年に板野町で見つかったクビアカツヤカミキリ(図4A)(ベトナム、中国、台湾などが原産)は、サクラやモモなどバラ科樹木を加害する特定外来生物です。成虫の飛翔によって分散することや、交通機関に便乗して移動することが知られているものの、徳島での発見については、近隣地域からの記録がなく、また幼虫期(ようちゅうき)が2年程度と長いため、その由来を探るのは容易ではありません。
2012年に徳島県の栽培ビワで発見されたビワキジラミ(図4B)は、世界に3000種以上知られるキジラミ類のどの既知種(きちしゅ)にも該当しない新種のキジラミでした。侵入経路は不明ですが、ビワを加害するキジラミ類の情報がもたらされている中国の長江(ちょうこう)流域が本種の原産地であると示唆されており、近年になって国外から侵入した外来昆虫とみなされています(井上, 2015)。

図4Aクビアカツヤカミキリ、Bビワキジラミ

図4Aクビアカツヤカミキリ、Bビワキジラミ

おわりに

大規模な橋梁により、本州と四国間の交通ネットワークが大幅に拡大し、人間活動に大きな変化をもたらしました。同時に外来昆虫の四国への侵入をも容易にしました。徳島は国際貿易港や国際空港のある近畿地方と地理的に近く、経済活動の相互交流が日常的に行われていることから、今後も近畿地方からの外来昆虫の侵入は続くと思われます。また、飛翔力のある昆虫は、他地域から海を越えてやってくることもあるでしょう。外来昆虫は身近に存在します。小さな昆虫たちの動向を日ごろから注視し続けることは簡単ではありませんが、実害のあるなしにかかわらず、少しでも興味関心を持ってほしいと願っています。

<引用文献>

井上広光(2015)植物防疫, 69: 98-101.
Inoue M. et al.(2013)Diversity and Distributions, 19: 29-37.
Kato A., Ohbayashi N.(2009)Entomological Science, 12: 130-134.
加藤敦史・山田量崇(2022)徳島県立博物館研究報告,(32): 7-12.
大原賢二・林正美(2004)徳島県立博物館研究報告,(14): 69-83
山田量崇(2020)徳島県立博物館研究報告,(29): 9-14.

 

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