博物館ニューストップページ博物館ニュース051(2003年6月15日発行)南の島からやってきた木の実-サキシマスオウノキとモタマナ-(情報ボックス)

南の島からやってきた木の実-サキシマスオウノキとモタマナ-【情報ボックス】

植物担当 茨木靖

 

これまでにも何度か漂着(ひょうちゃく)種子についてご紹介してきましたが、今回はその続報です。植物は動物のように動き回れないので、分布域を広げるためにできるだけ遠くに種子を送り届けようと工夫しています。鳥や動物に食べられて運ばれたり、風で飛んだりするものがありますが、中には潮の流れによって運ばれる種や実もあります。その代表はココヤシで、南方の植物ですが黒潮(くろしお)にのって徳島県の海岸にも漂着します。

 

さて、今回ご紹介するのもこの海の潮の流れを利用して果実を散布(さんぷ)している海流散布植物です。まずは、サキシマスオウノキ。冬のある日、県南の海岸を歩いていて見つけました(図1)。扁平(へんぺい)な楕円(だえん)形で長さは6.8cm、幅は5cm、厚さは3.2cmほど。真ん中に船の底のような出っ張りがあるのが特徴です。

図1 サキシマスオウノキの実。石に混ざっていると見つけにくい。

図1 サキシマスオウノキの実。石に混ざっていると見つけにくい。

この木は奄美(あまみ)大島以南からアジア、アフリカ、ポリネシアなどのマングローブ林の緑などに生える南方系の植物なので、少なくとも数百キロも潮に運ばれてきたと思われます。

ところでこのサキシマスオウノキは熱帯・亜熱帯多雨林のシンボルとも言われる面白い特徴を持っています。それは“板根(ばんこん)”というものです(図2)。板根は根っこが板のように盛り上がっており、高さ1mにもなります。これには大きな幹を支える役割があるといわれていますが、四方に伸びた様はとてもエキゾチックです。なんでも沖縄県の竹富(たけとみ)島にはこの根で作られた船の舵(かじ)があるそうで、今から150年くらい前の江戸時代の作とされています。

図2 サキシマスオウノキの板根。隣に立っているのは筆者。

図2 サキシマスオウノキの板根。隣に立っているのは筆者。

つづいてのモモタマナも海流で種子散布する植物です。私は県南の竹ヶ島などで見つけましたが、徳島県で拾(ひろ)われるのはとても珍しいことです。モモタマナは別名をコバテイシとも言うシクンシ科の植物で、高さ20mほどにもなる大きな木です。世界の熱帯から亜熱帯に多く、日本でも沖縄県南部以南には自生しています。このモモタマナはパラオ島では無上の珍味とされていて、中の種子をヤシから採った甘味料で煮詰(につ)めて、特別な集まりの時に振(ふ)る舞(ま)うそうです。味は淡白で少しアーモンドの香りがあるので、英語ではトロピカルアーモンドなどとも呼ばれています。

図3 モモタマナの実。外側の皮がとれてコルク質の層が出ている。

図3 モモタマナの実。外側の皮がとれてコルク質の層が出ている。

いずれの果実もコルク質の層などがあって軽く浮きやすくなっており、遠く異国まで旅することができるのです。ふらりと立ち寄った海岸で、このような南の植物を拾うといつも不思議(ふしぎ)な感動があります。

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