博物館ニューストップページ博物館ニュース055(2004年6月25日発行)最近の昆虫の話題-地球は暖かくなったのか?(055号情報ボックス)

最近の昆虫の話題-地球は暖かくなったのか?【情報ボックス】

動物担当 大原賢二

地球温暖化(おんだんか)が問題になっていますが、はたして地球は本当に暖かくなったのでしょうか。たしかにここ数十年間でみても年平均気温が1~2度上がっていることは知られています。では、温暖化の影響は昆虫の世界にも起こっているのでしょうか。

チョウのなかまでは、以前知られていた分布域から、さらに北方へ広がりつつある種が64種もおり、それは日本だけでなく、世界中で見られるということです(吉尾,2002)。
今回は、最近、チョウやガの世界で分布を広げつつある身近な種をご紹介しましょう。

ナガサキアゲハ

このチョウは、東南アジアからインドまで広く分布しています。日本産はオス、メスともに後ろバネに突起(とっき)を持たないことから他のアゲハチョウのなかまからはすぐに見分けられます。

 本種は、図1に示したように、1945年頃までは四国でも南部にしか見られず、徳島県南部で見られるようになったのは1950年代です。その後、すぐに徳島市内などでも普通種になり、1970年代から80年代には淡路島から大阪や京都などでも見つかりました。それで終わりではなく、90年代には愛知県、静岡県、そして2000年には関東地方まで分布を広げたのです。
大阪府立大学の吉尾さんと石井さんは、本種の分布拡大の原因を研究し、ナガサキアゲハは蛹(さなぎ)で越冬するため、蛹の耐寒性(たいかんせい)と、その地域のもっとも寒い月の気温を調べました。その結果、北限地域の温度が上がるにつれて分布が北へ広がっており、耐寒性を増すなどの生理的な性質は変えずに、温度の上昇に伴って分布を北へ広げたと結論しています(吉尾・石井,2001)。

図1 ナガサキアゲハの分布拡大(北原ら, 2001)

図1 ナガサキアゲハの分布拡大(北原ら, 2001)

キオビエダシャク(図2)

図2 キオビエダシャク 上がオス 下がメス

図2 キオビエダシャク 上がオス 下がメス

これはチョウではなく、南方系のガの一種です。 四国には分布していません。沖縄県や鹿児島県奄 美大島(あまみおおしま)付近に普通にいるガでした。このガが2000年ころから鹿児島県の本土でも見られるようになり、現在では鹿児島県のほとんどの地域でごく普通に見られます。幼虫は、九州地方で防風垣(ぼうふうがき)によく使われるイヌマキの葉を食べ、餌(えさ)はいくらでもあるといえます。増え方も急速で、2~3年で鹿児島県の北部近くまで広がりました。一度にたくさんの幼虫が付くと、木が枯れることもあります。

このほかにも多くの昆虫が分布を北へ拡大しつつあることが知られています。もともと生物の分布域が時間によって変動することは不思議なことではありません。しかし、その変動がある方向へ向いたり、急速に変化するとき、その変化が何を意味しているのかを調べるのは大切なことです。
 また、温暖化が間違いなく起こって生物に影響を与えているとしたら、逆に標高の高いところにすんでいるものがどうなっていくのか、それもまた注目したいものです。


【引用文献】

吉尾政信・石井実,2001.日本生態学会誌、51:125-130.
吉尾政信,2002.昆虫と自然、37(1):4-7.

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