モモ?それともスモモ?【レファレンスQ&A】
植物担当 茨木靖a.
A. 早春のある日、徳島市の遺跡を調査している人から質問の電話がありました。「平安時代の遺跡から何かの種子(しゅし)が出てきたので調べて欲しい」と言うのです。見てみるとモモの“核(かく)”のようでしたが、念のためちゃんと調べることにしました。
一般にモモの“種(たね)”と思われているものは、“核(=内果皮(ないかひ))”と呼ばれるもので(図1)、じつは本当の種子はこの中に入っています。この“核”を持っているものには、アンズ、ウメ、そしてスモモなどがあります。この内、ウメは表面に小さな穴が開くのでモモとは区別がつきます(図2)。アンズは表面に皺(しわ)がなく、全体が丸いのでモモとはかなり違います(図3)。ところがスモモについてはいくら本を調べてもよくわかりません。
図1 モモの核
図2 ウメの核
図3 アンズの核
仕方がないので、スモモを買いに行くことにしました。でも、スモモの時期は夏頃。春に買いに行っても売っていません。あちこち歩き回ってようやく干したアメリカ産プラムを見つけました。確かスモモは英語で“プラム”だったはずです。さっそく買って食べてみると、中から出てきたのは平べったくてつるっとした核(図4)。「やった!これで大丈夫!」。どうやらモモの核とは全然違うようです。
図4 プラムの核
それからしばらく経(た)ってのこと。家で何気なく果物の本を手にとって、スモモの所を開いてみて驚きました。その本によると、どうもプラムは在来のニホンスモモとは別物のようなのです。しかも、ニホンスモモの在来品種は栽培が難しく、最近ではほとんど栽培されていないとまで書かれています。
弱り果(は)てて、果物屋さんで働く知人に相談したところ、青果市場まで調べてくれたのですが、結局、ニホンスモモの在来品種は見つかりませんでした。
それからずいぶん経ってようやく手に入ったのは“大石早生(おおいしわせ)”と言うニホンスモモの一品種。食べてみるとその核はずっと平べったくて、モモの核とは全く異なるものでした(図5)。やはり遺跡から出てきたのはモモの核のようです。けれども、なにぶん大石早生は日本在来品種にいろいろなスモモのなかまを交雑(こうざつ)してつくられたものと言われていますので完全には安心できません。いつか、在来のニホンスモモの核を見てみたいものです。
図5 大石早生の核