どうしてカダヤシを放流してはいけないの?【レファレンスQandA】
動物担当 佐藤陽一
A.カダヤシ(図1)はタップミノーとも呼ばれる北米原産の小魚で、蚊(か)のボウフラを駆除(くじょ)する目的で、世界中に放流されました。日本ではとくに1960年代以降、日本脳炎ウイルスを媒介(ばいかい)するコガタアカイエカの駆除の目的で、関東地方以西の各地で盛んに放流されました。
図1カダヤシのオス(上)とメス(下)
そのきっかけとなったのが、徳島県でした。徳島市とその周辺は、吉野川下流のデルタに位置しています。かつては広範囲に低湿地(ていしっち)が広がり、蚊にとっては絶好の生息地でした。そのため、日本脳炎は徳島の風土病といわれるほど、多発していたのです。そこに駆除の切り札として登場したのが、カダヤシでした。その名のごとく、蚊を根絶(ねだ)やしにすることが期待されたのです。コガタアカイエカに限らず、ほかの蚊のボウフラも補食したので、各地で歓迎(かんげい)されたことでしょう。
ところが、時代が移り変わるにつれ、状況が変わってきました。海岸に近い平野部は都市化が進行し、また、その周辺部の田園地帯では圃場(ほじょう)の整備が進んだため、低湿地が減少し、かつてほど蚊は発生しなくなりました。さらに、予防接種の実施も進み、日本脳炎自体も大きな脅威(きょうい)とは見なされなくなってきました。もはや、かつてほどカダヤシは必要とされなくなったのです。
その一方で、カダヤシはメダカなどの在来の生物に対する影響が大きいということもわかってきました。例えば、1998年に当館が県民の皆さんと行ったメダカ・カダヤシの分布調査では、カダヤシは紀伊水道(きいすいどう)沿いの海岸平野に分布し(図2)、カダヤシが生息する場所にはメダカが生息しない傾向があることがわかりました。また、徳島大学との共同研究では、カダヤシはメダカに対する攻撃性(こうげきせい)が強く、メダカのヒレに損傷(そんしょう)を与えることもわかりました。おそらく、ほかの魚類や昆虫など他の生物への影響もあることでしょう。生物多様性に対し、とくに影響の大きい外来種を侵略的外来種(しんりゃくがいりゃくず)と言いますが、カダヤシは世界の侵略的外来種100種のうちに入れられています。
図2徳島県におけるカダヤシの分布
このような状況下において、2005年6月より通称「外来生物法」が施行(しこう)されました。そして2006年2月から改正版が施行され、その中でカダヤシが規制の対象となる特定外来生物に指定されたのです。この法律では、指定された生物の飼育、譲渡(じょうと)、運搬(うんぱん)、輸入および野外への放出が厳(きび)しく規制されます。違反すれば、3年以下の懲役(ちょうえき)または300万円以下の罰金(法人の場合1億(おく)円以下)が課されます。
徳島市では40年近くにわたり、カダヤシを市内各地に放流してきました。しかし、新聞などの報道でもあったように、今年から放流を中止します。それには以上のような理由があるのです。