博物館ニューストップページ博物館ニュース067(2007年6月25日発行)高知県四万十市から発見されたオウムガイ化石(067号情報ボックス)

高知県四万十市から発見されたオウムガイ化石【情報ボックス】

地学担当 辻野泰之

博物館では、しばしば一般の方から「化石を採集したのですが、名前を教えてもらえませんか?」との問い合わせがあります。ほとんどの場合、持ち込まれた化石は、多く産出するありふれた種類ですが、時には非常に珍しく、学術的にも貴重な場合もあります。

図 1 佐田石灰岩から産出したオウムガイ化石:アツ口イデア。 A::腹面 B:側面矢印:漏斗状の縫合線。

図 1 佐田石灰岩から産出したオウムガイ化石:アツ口イデア。 A::腹面 B:側面矢印:漏斗状の縫合線。

 

以前、高松市在住の化石愛好家:岩田博英(いわたひろひで)さんから、高知県四万十市佐田(さだ)で採集した化石の鑑定の依頼がありました。ここには白亜紀(はくあき)末期(約8000万~6500万年前)とされている石灰岩(せっかいがん)があり、古くから二枚貝化石の産出が知られています。しかし、持ち込まれた化石は二枚貝化石ではなく、アンモナイトなどによく見られる縫合線(ほうごうせん)をもつ化石でした(図1)。その縫合線の形は湾曲した漏斗状(ろうとじょう)をしており、白亜紀よりも古い、古生代(こせいだい)(約5億4000万~2億5000万年前)という時代のアンモナイトのものに似ていました。白亜紀の地層から古生代のアンモナイトが産出するはずもなく、殻の形態からオウムガイ類に属する化石であるとすぐに判断できました。後日、細かな種類について文献等で調べた結果、アツロイデア(Aturoidea)と呼ばれるオウムガイ類であることがわかりました。

アツロイデアは、白亜紀後期から古第三紀始新世(こだいさんきししんせい)(約5600万~3400万年前)の地層から知られており、これまでにイギリス、オーストリア、リビア、アンゴラ、インド、アメリ力、ペルー、オーストラリアのほぼ世界中から、少なくとも13種類が報告されています。しかし、その産出量は非常に少なく、ほとんどの種類で1個体または数個体しか報告されていません。もちろん、日本からの産出もこれまでなく、東アジア地域からの報告もありません。また、白亜紀という時代に限れば、リビア、アンゴラ、インドの3力国のみであり、この標本は白亜紀の地層から発見された数少ない記録であり、さらに日本を含む東アジア地域からの初産出となります。

アツ口イデアは、産出する時代によって漏斗状の縫合線の形態に微妙な違いがあります。白亜紀から知られる初期のアツロイデアはやや丸みのある縫合線をもちます。一方、古第三紀始新世から知られるものはやや尖(とが)りのある縫合線をもちます。今回、採集されたアツロイデアは、白亜紀の地層から産出したにもかかわらず、これまで知られている白亜紀のものと形態が異なり、やや尖りが見られました。その縫合線の形態は、ちょうど白亜紀タイプと第三紀始新世タイプの中間の形態をしています。今後、さらに調査が必要ですが、もしかしたら、この標本は新種の可能性があるかもしれません。今後の研究の進展をお待ち下さい。
なお、この標本は学術的にも貴重であるため、岩田さんのご理解を得て博物館にご寄贈いただきました。

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