博物館ニューストップページ博物館ニュース079(2010年6月25日発行)ラクダムシ~駱駝蟲~(079号館蔵品紹介)

ラクダムシ~駱駝蟲~【館蔵品紹介】

動物担当 大原賢二

ラクダムシ、これは写真(図1)の昆虫の名前です。漢字では、砂漠でおなじみの動物「駱駝(らくだ) 」と昆虫を意味する「蟲(むし)」と書きます。昆虫の和名にはいろいろおもしろいものがありますが、このラクダムシも変わった名前の一つでしょう。英語ではsnake-fly(ヘビのようなムシ)と呼ばれているようですが、これはクビを上に持ち上げるところがヘビの威嚇(いかく)ポーズに見えるということなのでしょう。「ラクダ」は中胸(ちゅうきょう)と後胸(こうきょう)の背中側の盛り上がりがコブのように見えるということからこの名前がつけられたようです。

図1 ラクダムシ、メス成虫。

図1 ラクダムシ、メス成虫。

 

ラクダムシは昆虫の分類群のうち、ラクダムシ目(もく)(Raphidioptera)に属し、この目(もく)は世界ではオーストラリアを除く広い範囲に分布しています、とくにアジアではかなり多くの種が知られています。このグループの昆虫は、体長が10~20mm、前バネの長さが10~15mm の中型の昆虫で、ウスバカゲロウやクサカゲロウなどの脈翅(みゃくし)目と近縁なグループです。

ラクダムシ目は、ラクダムシ科(Inocellidae)とキスジラクダムシ科(Raphidiidae) の2つの科からなり、日本ではこれまで、ラクダムシ科にはラクダムシInocellia(Inocellia)japonica Okamoto, 1917、キスジラクダムシ科にはキスジラクダムシMongoloraphidia(Japanoraphidia)harmandi (Navas,1909)のそれぞれ1種ずつしか知られていません。

ラクダムシ科は、ハネの前の方にある小さな斑紋(縁紋)の中にハネの脈がないこと(図2-左)、頭には3個の単眼を持たないことでキスジラクダムシ科とは区別されます。海岸のマツ林や、内陸部の中~低山地で採集され、本州、四国、九州から記録されています。幼虫は非常に扁平で、枯れたマツなどの樹皮下で他の昆虫などを捕らえて食べています。一方、キスジラクダムシ科は、ハネの縁紋に1 本の脈を持つこと(図2-右)、頭部には3個の単眼を持つことで識別されます。採集記録が少なく、以前は本州中部からしか記録されていませんでしたが、最近、北陸地方や新潟県、紀伊半島、中国地方、九州などにも分布することがわかってきました。徳島県では、上勝町高丸山や剣山系のいくつかの場所で採集されています。キスジラクダムシは海抜1,000~1,500m ぐらいの、広葉樹の多い地域で得られていますが、いずれの場所でも得られた個体は極めて少ないものです。

図2右前バネの縁紋(左:ラクダムシ、右:キスジラクダムシ)。 キスジラクダムシの縁紋のなかには脈が 1 本ある。

図2右前バネの縁紋(左:ラクダムシ、右:キスジラクダムシ)。 キスジラクダムシの縁紋のなかには脈が 1 本ある。

ラクダムシは5月中旬、徳島市大神子海岸などのマツ林のなかで見られます。キスジラクダムシは、6月ころから山地に咲くクマノミズキの花で採集された例が多く、網で花をすくうことで採集されるようです。

これまでは、ハネの縁紋の脈や、単眼を持つか持たないかという科の特徴で、そのまま種が区別できていましたので、どこで発見されても、ラクダムシかキスジラクダムシのどちらかの種の報告しかありませんでした。しかし、キスジラクダムシに関しては、形態的には地域によってかなり違いがあり、日本のキスジラクダムシも一種ではなく、かなり多くの種に分化していると考えられます。徳島県産のキスジラクダムシとされている種はおそらく新種であるとみられています。いろいろな昆虫でわかっていないことはまだまだたくさんあるのです。

カテゴリー

ページトップに戻る