博物館ニューストップページ博物館ニュース080(2010年9月15日発行)香川県自然記念物の「木戸の馬蹄石」(080号野外博物館)

香川県自然記念物の「木戸の馬蹄石」【野外博物館】

「木戸(きど)の馬蹄石(ばていせき)」

地学担当 辻野泰之

香川県まんのう町(旧琴南町)には、「木戸(きど)の馬蹄石(ばていせき)」とよばれる香川県の自然記念物にも指定されている所があります。川の両岸に露出している地層の表面には、灰色の長細い楕円(だえん)状の筋がたくさんあり、その名の通り馬の蹄(ひづめ)の跡のようです(図1)。「木戸の馬蹄石」には伝説があり、昔、源平合戦の折、源義経が源氏の本隊を率いて、徳島からやってきて、この土地で馬をとめて、しばらく休憩をとった時に、岩に馬の蹄の跡がついたと言われています。そのような伝説がありますが、実は馬の蹄に見える筋の正体は、二枚貝であるカキの化石なのです。カキ化石は、主に砂岩や礫(れき)岩に含まれ、殻が重なり合うぐらい密集し、数枚の層をなしています(図2)。カキ化石を含む砂岩や礫岩は、和泉層群(いずみそうぐん)と呼ばれる白亜紀(はくあき)後期(約8000万~7000万年前)の地層です。

図1 地層中に灰色の細長い楕円形の筋がみられる

図1 地層中に灰色の細長い楕円形の筋がみられる

図2砂岩中にみられるカキ化石の密集層

図2砂岩中にみられるカキ化石の密集層


一概にカキと言ってもその種類は多く、食用とされるマガキ類やイワガキ類からその他、食用にされない中型や小型の種類

ものまで多種多様です。この「木戸の馬蹄石」のカキ化石はCrassostrea 属(マガキの仲間)に含まれます(図3)。Crassostrea 属は、現在でも生存しており、初期のグループは、ジュラ紀後期から白亜紀前期(約1億5000万年~1億4000万年前) の地層からも産出しています。生息場所はその当時から干潟や内湾のような汽水域(きすいいき)(淡水と海水が混ざる場所)に限られており、海底に突き刺さるように垂直に伸びる生息姿勢をとっています。

図 3 マガキの仲間の Crassostrea ariakensis(長崎県南有馬町の第四紀層より産出したもの)

図 3 マガキの仲間の Crassostrea ariakensis(長崎県南有馬町の第四紀層より産出したもの)

「木戸の馬蹄石」のカキ化石の殻の多くはバラバラにならず、二枚の殻を残しており、また一部は、生きていた当時の生息姿勢を残したまま化石になっています。このことから、カキ化石の密集層がある場所は、当時、一時的に現在の干潟~内湾のような環境であり、そこに大規模なカキ礁が広がっていたと推定されています(吉川ほか、2009)。

参考文献

吉川ほか、2009 : 上部白亜系和泉層群北縁相のカキ化石密集層、日本古生物学会2009 年年会講演予稿集、p.38.

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