トロトロ石器【情報ボックス】

考古担当 高島芳弘

「トロトロ石器」というちょっと変わった名前で呼ばれる石器があります。名前の由来は、打ち欠いた後、表面を磨いて‟ トロトロ” になっているものが多いからです。異形部分磨製石器という呼び名も持っています。一見、石鏃（せきぞく）（やじり）のような形をしていますが、先端はとがらずに、丸くなっています。石鏃よりも分厚く、突き刺したり切ったりするのには不向きで、石鏃とは違った用途に使われたものと考えられています。
トロトロ石器は、ほとんどのものがチャートと呼ばれる石材を使ってつくられています。そのため、出土する場所もチャートの産出地の近くが中心となり、四国では高知県から多く見つかっています。しかし、なぜか一つの遺跡からは、単独またはごく少数でしか見つかりません。約8,000年前の縄文時代早期、押型文土器と呼ばれる土器が使われていた時期に多く見つかります。徳島県では、吉野川中流域の加茂谷川5号岩陰遺跡（東みよし町）と那賀川中流域の古屋岩陰遺跡（那賀町）から押型文土器（図1）が出土しています。しかし、これらの遺跡からはトロトロ石器は見つかっていません。

図1 押型文土器（加茂谷川5号岩陰遺跡）

図2は、那賀川中流域の鮎川西ノ宮遺跡（図3）と陰谷北遺跡（いずれも那賀町）で採集された2点のトロトロ石器です。どちらも、チャートでつくられており、右は長さ4cm、厚さ0.9cm あります。磨いた跡はまったくないのですが、形はトロトロ石器そのものです。どちらも先端部や脚部が欠けているので、ひょっとすると製作の途中で失敗してしまったものかも知れません。徳島県内では、この2点の他に、吉野川市鴨島町から1点見つかっているだけです。

図2 トロトロ石器（左：陰谷北遺跡・右：鮎川西ノ宮遺跡）

図3 空から見た鮎川西ノ宮遺跡

最近、徳島県でも縄文時代の遺跡の発掘調査例が増えてきましたが、多くは後期や晩期の遺跡で、草創期や早期、前期の遺跡はまだほとんど見つかっていません。

トロトロ石器と押型文土器とがいっしょに出土する遺跡を早く発見したいものです。