展示と資料保存の両立【情報ボックス】
考古担当 岡本治代
博物館の展示を見に来て、「暗くて資料が見にくいなぁ」と感じたことや、「展示ケースごしではなく直接資料を見たり触ったりしたいなぁ」と感じたことはないでしょうか?
じつは、私たちが普段何気なく暮らしている環境には、資料を破壊する要因となるものがたくさんあります。たとえば、湿度が低すぎると木製の資料はゆがんでしまったり、逆に湿度が高すぎると金属製品がサビたり、紙資料にカビが生えたりします。また、光の影響で絵画の色が変色したり、文化財害虫によって、資料が食べられたりすることもあります。このような、資料を壊してしまう要因をできるだけ取り除き、その資料の保存にとって適切な環境を調えることも、学芸員の大切な仕事のひとつなのです。
博物館では、資料に応じた温湿度を保つため、空調や展示ケース、調湿剤(湿度の変化を緩やかにし、一定の湿度に保つ薬剤)を利用して、資料が置かれた環境の温湿度を、最適な状態に調えています(図1)。また、照明は、資料を傷める紫外線・赤外線をほとんど発しないものを用い、ICOM(国際博物館会議)などが定める照度基準に応じた明るさに設定しています(図2)。さらに、外部から入ってきた資料は、害虫やカビが付着している可能性があることから、文化財用の殺虫・殺菌剤によって燻くん蒸じょうしてから収蔵庫に収納し、収蔵庫・展示室を清潔な環境に保っています(図3)。
図1 温湿度を計測する機器
図2 紫外線吸収膜付き蛍光灯
図3 燻蒸庫
このように、資料保存のために守らなければならない条件はありますが、たとえば「照明を暗くしなければならない場合には、パネルの字を大きくする」、「手に取っていただけるレプリカを展示ケースの外に設置する」、など観覧者が利用しやすいよう工夫することもできるでしょう。観覧者にとってより良い環境と、資料の保存を両立するために、学芸員は日々知恵をしぼっています。