Q.クサガメが外来種ってホント!?【レファレンスQandA】
動物担当 佐藤陽一
A 最近では平野部に生息するカメはすっかり北アメリカ原産の外来種ミシシッピアカミミガメばかりになってしまって(図1)、ほかのカメ類を見かけることは少なくなりました。特に平野部の水路や池などに普通に生息していたクサガメはすっかり減って、ミシシッピアカミミガメに置き換わってしまった感じです。
図1 ミシシッピアカミミガメ
図2 クサガメ
これまで日本の在来の淡水性カメ類はクサガメを含めニホンイシガメとニホンスッポンの3種とされてきました。今でも図鑑類にそのように書いてあり、多くの人がそのように思っているのではないでしょうか。ところが最近の研究によりクサガメも外来種であることがほぼ確実になったのです。ここでは九州大学の鈴木大(すずきだい)氏らの研究をご紹介しましょう。根拠は大きく3つあります。
化石などの記録
カメ類の甲羅(こうら)は固いので化石として、あるいは遺跡から出土しやすいはずなのに、なぜかクサガメの化石や遺物は出土しません。
文献の記録
日本におけるクサガメのもっとも古い記録は、東洋のリンネといわれた江戸時代の博物学者、小野蘭山(おのらんざん)による本草綱目啓蒙(ほんぞうこうもくけいもう)(1805)に書かれています。それによると当時の分布は現在の福岡県周辺だけでした。現在、クサガメは、本州、四国および九州に広く分布しています。
遺伝子の記録
細胞の中には核のほかにもミトコンドリアという遺伝を司(つかさ)どるDNAを含んだ細胞内器官があります。各地のクサガメのミトコンドリアDNAを比較することにより、出身地がわかるというわけです。その結果、日本のクサガメには遺伝的に異なる3つの系統があり、いずれも朝鮮半島(これがもっとも多い)か中国大陸のクサガメ由来であることがわかりました。
身近な生きものも、改めて調べ直してみると意外なことが分かるものですね。ところで日本では減ったとはいえクサガメはまだ絶滅するほどではありません。ところが本家本元の中国ではすっかり減ってしまい、絶滅危惧種(ぜつめつきぐしゅ)となっています。本来の生息地で減って、移入先で増える-外来種でよくみられる現象です。(動物担当:佐藤陽一)
参考文献:鈴木 大(2012)クサガメ日本集団の起源.亀楽,(4):1-7.7