笠井新也関係資料【館蔵品紹介】
歴史担当 長谷川賢二
当館では、徳島県の郷土史家であり、全国的にも考古学・古代史研究を中心として活躍した笠井新也(かさいしんや)(1884-1956)の関係資料を収蔵しています。『阿波伝説誌』や『邪馬台国(やまたいこく)及卑弥呼(ひみこ)研究』といった大部な未刊原稿、筆写した史料、自著、調査ノート、旧蔵書などがあり、彼の旺盛(おうせい)な研究活動の実態や興味のあり方が知られます。これらは、ご子息で、日本古代史研究者である笠井倭人(わじん)氏から寄贈いただいたものです。受け入れに際しては、当館元館長の天羽利夫(あもうとしお)氏が仲介の労をおとりくださいました。お二人に心からのお礼を申し上げます。
笠井は、現在の美馬市脇町に生まれました。国学院に学び、卒業後は、徳島県、長野県、大阪府で教職に就きながら、考古学と民俗学の研究をしました。1915年(大正4)に退職し、翌年には東京大学の鳥居龍蔵(とりいりゅうぞう)のもとで聴講生となり、京都大学の講習会でも学びました。1917年、帰郷して母校の脇町中学校(現在の県立脇町高等学校)に勤め、1939年(昭和14)に退職しました。帰郷後は、伝説などの民俗学的研究、邪馬台国をめぐる考古学・古代史研究を中心に取り組みました。とくに邪馬台国の研究では、古墳や文献史料の研究から大和説を主張し、現在でも注目されています。
折しも今年は、笠井没後60年にあたります。同じ徳島県出身の鳥居龍蔵や喜田貞吉(きださだきち)といった考古学・古代史研究の先覚者に比べると知名度は低いですが、この機に部門展示「没後60年 笠井新也」を開催し(5/31~7/31の予定)、徳島県が生んだ歴史家として笠井に注目してもらいたいと思っています。
写真1 国学院特待生証書。笠井が優秀な学生だったことをうかがえる。
図2 抄録。東京遊学中の笠井が、上野図書館(正式には帝国図書館)で筆写した史料集。
図3 『邪馬台国及卑弥呼研究』の原稿(一部)