博物館ニューストップページ博物館ニュース105(2016年12月1日発行)海草化石とされていたコダイアマモの正体が判明!(105号CultureClub)

海草化石とされていたコダイアマモの正体が判明!【CultureClub】

地学担当 中尾賢一・千葉大学 小竹信宏

コダイアマモは、阿讃山脈(あさんさんみゃく)や和泉山脈(いずみさんみゃく)をつくる和泉層群(いずみそうぐん)(中生代白亜紀後期)の砂岩から特徴的に産出する化石です(図1)。見るからに植物のような形をしており、古くからショウブイシやアヤメイシなどと呼ばれ海草(かいそう)の化石と考えられてきました。

図1 砂岩中に保存されているコダイアマモ化石(産地不明)。ステージⅠ(後述)を欠く。

図1 砂岩中に保存されているコダイアマモ化石(産地不明)。ステージⅠ(後述)を欠く。


千葉大学理学部教授の小竹らと徳島県立博物館は、この化石の再検討を共同で行ってきました。その結果、この化石が植物ではなく生痕(せいこん)化石(生物の活動の痕跡が地層に残ったもの)で、しかもトイレ付きの巣穴(すあな)化石であることを示す決定的証拠(しょうこ)が最近見つかりました。この成果は、2016年7月に論文(Kotake et al., 2016)として公表されました。ここではその論文をもとに、一世紀近く経ってようやく判明したコダイアマモの正体を簡単に解説します。

これまでの経緯

コダイアマモは、京都帝国大学の植物学者であった郡場寛(こおりばかん)と三木茂(みきしげる)両氏によりアマモ科(水生顕花(すいせいけんか)植物)の祖先として1931年に記載(きさい)されました。その後、1958年に再記載され形態も復元されました(図2)。この解釈(かいしゃく)は、植物学者のみならず地質学者や古生物学者からも支持されてきました。
ところが1968年に来日したドイツの著名な古生物学者アドルフ・ザイラッハー博士は、コダイアマモが植物化石ではなく生痕化石という見解を示しました。それ以降、生痕化石説に同意する研究者が多くなりました。実際、コダイアマモは現在のアマモ科植物が生息する浅海(せんかい)ではなく深海(しんかい)でたまった地層のみから産出すること、「葉(は)」にアマモ科植物の特徴を示す構造が見られず、泥(どろ)のような細粒の黒い物質で構成されるなど、アマモ科植物化石説にとっては不利な事実がありました。しかし、アマモ科植物を否定する決定的証拠が見つからなかったため、決着がつかないまま時間が経ってしまいました。1990年代に入ると、コダイアマモは生痕化石で、海底に巣穴を掘ってその周囲の泥を食べる動物が作ったという説が発表され(Fu, 1991)、世界的にも生痕化石説が有利になりました。しかし、この論文では、たった一つの小さな、しかも不完全な標本に基づいて研究されていたことから、論争に決着をつけることはできませんでした。

図2 Koriba and Miki(1958)による復元図。

図2 Koriba and Miki(1958)による復元図。

産状と形態

鳴門市島田島(しまだじま)から北泊(きたどまり)の海沿いに露出する和泉層群でコダイアマモの詳しい産状観察を行ったところ、以下の3つのステージに区分できることが新たにわかりました。
ステージⅠ:地層の堆積面(たいせきめん)(層理面(そうりめん))に斜めに入る中心軸(ちゅうしんじく)(巣穴)と、その左右の細いトンネルよりなっています。中心軸の上端は直上の泥岩につながっています。このステージは、これまで全く知られていませんでした(図3)。
ステージⅡ:層理面に平行な部位で、トンネルはステージⅢに向かって急激に大きくなります。
ステージⅢ:直線状またはわずかに湾曲(わんきょく)した放射(ほうしゃ)状のトンネルで、お互いが複雑に重なり合います。トンネルの大きさはほぼ一定です。なお、ステージⅡとステージⅢのトンネルの内部(「葉」の内部)には、三日月型の構造が見られます。

「葉」をつくる物質

コダイアマモの内部(「葉」の部分)をつくる黒い物質がどのような鉱物からできているのかを調べるため、X線回折分析(かいせつぶんせき)を行いました。その結果、黒い物質は直上の泥岩と同じ鉱物であることがわかりました。つまり、植物ではないことはもちろん、周囲の堆積物を食べて作ったものでもないことがわかりました。今のところ、コダイアマモをつくった動物が、当時の海底面に体の一部を出して栄養分を含む泥を食べ、糞(ふん)を海底面下に規則的に排泄(はいせつ)したと考えるのが最も無理がありません。実際、そのような生活スタイルをとる動物は、現在の海にも生息しています。

アマモ科化石説との比較

図4はコダイアマモの新たな復元形態で、生痕化石であることを示しています。コダイアマモを海草と解釈したKoriba and Miki(1958)による復元図(図2)をみると、「葉」は「根茎(こんけい)」から直接出ていますが、実際そのような化石は見つかっていません。現地での詳しい観察の結果、彼らはコダイアマモと一緒に産出する甲殻類(こうかくるい)の巣穴化石を「根茎」と誤認した可能性が有力です。また、一つの標本のなかで、トンネルのサイズと形が変化する事実は、コダイアマモをつくった動物が成長とともに行動も変化させたことを反映していると考えられます。さらに、ステージⅢの複雑なトンネル構造は、コダイアマモをつくった動物の成長が止まり、堆積物の決まった深さ以上に潜ることができず、糞の排泄場所が特定の深さに限られてしまい、同じ場所を何度も利用した結果と解釈できます。

図3 ステージⅠを含むコダイアマモの断面。上位の泥岩層(折り尺の位置)から巣穴を掘り込んでいる。生痕化石であることの決定的証拠の一つ。

図3 ステージⅠを含むコダイアマモの断面。上位の泥岩層(折り尺の位置)から巣穴を掘り込んでいる。生痕化石であることの決定的証拠の一つ。

図4 新たに復元されたコダイアマモの形態と産状(Kotake et al., 2016の図をもとに作成)。

図4 新たに復元されたコダイアマモの形態と産状(Kotake et al., 2016の図をもとに作成)。

 

まとめ

コダイアマモは植物化石ではなく、トイレ付きの巣穴化石でした。これを作った動物は、ひとつの巣穴から一生移動することなく成長しながら生活し、巣穴の開口部の周辺に堆積した泥を食べ、糞を巣穴の奧に排泄したと考えられます。つまり、食卓と居住スペース、そしてトイレを分離するという特殊な生活様式と行動の化石と解釈できます。

〈参考文献〉

Fu, S., 1991, SenkenbergischeNaturforschende GesellschaftFrankfurt a. M., 1–79.454,12-19.
郡場寛・三木茂,1931.地球,15,165-204.
Koriba, K. and Miki, S., 1958.The Palaeobotanist, 7, 107-110.
Kotake, N. et al.,2016, Palaeogeography,Palaeoclimatology,Palaeoecology.454,12-19.

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