博物館ニューストップページ博物館ニュース105(2016年12月1日発行)徳島城下町跡から出土した木製品の保存処理について(105号情報ボックス)

徳島城下町跡から出土した木製品の保存処理について【情報ボックス】

考古・保存科学担当 植地岳彦

地中には、昔の人が使っていた木製品が多く眠っ ています。木製品は通常、土の中に埋(う)もれると朽(く)ちて無くなってしまうので、発掘調査などで出土したものは大変貴重です。しかし出土後に何の処置もしないと、すぐに傷み始め、最後はボロボロになって壊(こわ)れてしまいます。出土した時の姿形を保つためには、「保存処理」を行う必要があります。

徳島城下町跡を発掘調査した(公財)徳島県埋蔵文化財センターは、発掘時に出土した木製品に対して保存処理を行いました。筆者はその保存処理に関わってきましたので、木簡などを例に、徳島城下町跡出土木製品の保存処理について紹介します。

木製品の保存処理

木製品内部に含まれる水分と保存材料を置き換えて硬化させることで、堅さと柔軟さを与え、劣化を抑制します。現在は、処理時間が短く、温湿度の変化にも強い、糖質(糖アルコール ラクチトール)や糖類(トレハロース)を保存材料として使用する方法が主流です(図1)。

図1 木製品の保存処理の様子。薬液から取りだした直後の状態で、まだ表面には保存処理に使った薬剤が残っています。

図1 木製品の保存処理の様子。薬液から取りだした直後の状態で、まだ表面には保存処理に使った薬剤が残っています。

特殊な資料の保存処理

〈木簡〉

木の板に墨で文字などを書いたものです。木簡の表面は黒ずんでいることが多く、文字を読み取るのが困難な場合があるので、赤外線をつかって黒ずみにかくされた文字を読み取る調査を行います。黒ずみの原因は、表面に沈着した鉄分です。保存処理は、薬品を使ってこれを取り除きます。処理温度の調整や、墨書部分の接触を避けるといった注意点がありますが、それ以外は他の資料と変わりません。処理後は表面が明るくなり、文字もはっきりと見えます(図2)。

図2 木簡の保処理前( 左 )と 処理後( 右 )の様子。処理後は黒ずみがなくなって、墨で書かれた文字が読みやすくなりました。

図2 木簡の保処理前( 左 )と 処理後( 右 )の様子。処理後は黒ずみがなくなって、墨で書かれた文字が読みやすくなりました。

〈漆塗りの椀〉

漆を何重にも塗り重ねた高級品は、その漆の膜が保護層としても機能するので保存処理も難易度は高くありません。一方で、漆膜(うるしまく)が薄い資料は、作業を進めるだけでも漆膜がはがれてきます。また、漆膜が反り返ることもあって、作業は困難です。保存処理は、木簡と同様、処理温度に注意し、漆膜の剥落に注意します(図3)。 

3 保存処理が終わった漆椀を、底側から見た様子。見た目の変化は少ないですが、木の部分までしっかりと固くなって扱いやすくなりました。乾燥しても変化しません。

図3 保存処理が終わった漆椀を、底側から見た様子。見た目の変化は少ないですが、木の部分までしっかりと固くなって扱いやすくなりました。乾燥しても変化しません。

※写真はいずれも(公財)徳島県埋蔵文化財センター提供

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