博物館ニューストップページ博物館ニュース113(2018年12月1日発行)長翅型のナベブタムシ(113号館蔵品紹介)

長翅型のナベブタムシ【館蔵品紹介】

昆虫担当 山田量崇

ナベブタムシという昆虫をご存じですか?その名のとおり、鍋(なべ)のフタのような円(まる)くて平たい体をしている昆虫です(図1)。水中で暮らすカメムシの仲間で、水のきれいな流れの速い河川にすみ、カゲロウやユスリカ、トビケラなどの幼虫を捕食(ほしょく)します。通常は水底にある砂利(じゃり)の中にかくれて生活しています。成虫は、気門(きもん)の周りに生える細かい毛の間に水中の酸素(さんそ)をためて呼吸(こきゅう)をする“プラストロン呼吸”を行うため、生涯を通じて水中で過ごすことができます。また、ナベブタムシの体には短い前翅(ぜんし)しかなく、後翅(こうし)も退化(たいか)しているため飛ぶことができません。しかし、ごくまれに長い翅(はね)をもつ長翅(ちょうし)型の個体が見つかることがあります。

図1 通常のナベブタムシ(短翅型)

図1 通常のナベブタムシ(短翅型)

2017年6月に神山町(かみやまちょう)の鮎喰川(あくいがわ)で長翅型のナベブタムシが見つかりました。広野小学校が毎年実施している水生生物の調査中に子どもたちによって採集されたのです。容器に入れられた多数のナベブタムシの中に、他の個体とは雰囲気の違う黒っぽい個体が1個体いることに気づきました。ルーペで確認すると長翅型のナベブタムシでした(図2)。今回見つかったのは、前翅が腹部(ふくぶ)の先端まで完全に覆(おお)っている個体でした。長翅型と呼ばれる個体には、これまで2つのタイプが知られています。1つは前翅の先端が腹部の第4背板(はいばん)までしか届かないタイプで、もう1つは腹部先端まで完全に伸びているタイプです。後者の場合、後翅もよく発達しており、飛翔(ひしょう)が可能と考えられています。貴重な個体なので、解剖(かいぼう)して後翅の状態を観察していませんが、おそらく十分に発達した後翅をもった飛翔可能な個体であると推測できます。

図2 長翅型のナベブタムシ(♂)

図2 長翅型のナベブタムシ(♂)

ナベブタムシは本州、四国、九州の各地の河川で普通にみられる昆虫ですが、最近、以前と比べて身近な昆虫ではなくなってきました。地方自治体のレッドデータブックに掲載されるようになったのです。徳島県でも準絶滅危惧種(じゅんぜつめつきぐしゅ)に挙げられています。長翅型の出現率は詳しくわかっていないようですが、少なくとも今回の発見から言えることは、神山町の鮎喰川にはナベブタムシがたくさんいて、生息環境が良好に保たれているということではないでしょうか。

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