博物館ニューストップページ博物館ニュース117(2019年12月3日発行)暖かい森の木になるシダ~ヘゴ~(117号野外博物館)

暖かい森の木になるシダ~ヘゴ~【野外博物館】

植物担当 茨木靖

薄暗い湿った森の中には、落ち葉が厚くつもっている。足元を気にしながら、さらに森の中にわけ入る。うっそうとした森。ふと見上げると、目の前に大きな葉が見えた(図1)。

図1 ヘゴの生える森。左上がヘゴ。人物は案内してくださった地元研究者の成田愛治さん。

図1 ヘゴの生える森。左上がヘゴ。人物は案内してくださった地元研究者の成田愛治さん。

“ヘゴだ!すごい大きいなぁ!”ヘゴは、暖かいところに生えるシダで、熱帯地方に多く見られます。そう、ここは熱帯のジャングル…ではなくて、なんと徳島(とくしま)県けん!?県内でこんなに立派にヘゴが育つなんて、本当に驚きました。

私達がふつうに目にするシダは小さな草です。ヘゴは、シダなのに木のように幹があって、高さ4mになり、巨大な葉は長さ2mにもなります(図2、3)。まるでヤシのように見えますが、ワラビやゼンマイと同じシダなのです。ちなみに、恐竜のいた時代には、ヘゴのように木になるシダがたくさん生えていたことが知られています。ヘゴは、熱帯から亜熱帯に多く、日本でも沖縄(おきなわ)や奄美(あまみ)地方にはたくさん生えています。紀伊(きい)半島南部や八丈島(はちじょうじま)を北限とし、四国(しこく)、九州(きゅうしゅう)南部、屋久島(やくしま)より南でみかけられますが、紀伊半島や四国では、せいぜい膝下(ひざした)程度の大きさです。寒さにとても弱く、小さいうちに枯れてしまうため、木のように大きく育つことはほとんどないそうです。

図2 ヘゴ。幹が伸びているのがわかる。

図2 ヘゴ。幹が伸びているのがわかる。

図3 葉も巨大。

図3 葉も巨大。

 

実際に、徳島県内には、これまでも記録があり、私も見たことはありました。けれども、いずれも地面から葉っぱが2~3枚出ているだけの小さなものばかりで、人の背丈を越えるものを見たのは初めてでした。珍しい植物なので、生えている場所は言えませんが、徳島県内にこんなに立派なヘゴが育っているなんて、本当に嬉しいことです。

徳島県には、高い山にあるシコクシラベやウラジロモミなどの林から、平地のシイやカシの多い森、そして県南の温暖な森まで、さまざまな環境があります。剣山などに見られる高い山々の森は人々をひきつけ、よく話題になります。でも、じつは徳島県の南の森には、沖縄の植物学者に話すと「えっ、そんなものが生えているの!」と、逆に驚かれるようなものが、いろいろと生えているのです。もっと注目して欲しい故郷の宝だなと思います。

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