外来植物とのつきあい方【CultureClub】
植物担当 小川誠
環境省によると、外来種(がいらいしゅ)(外来生物)とは、「もともといなかった地域に、つれてこられたり、やってきた生き物」のことです。ヒアリやセア力ゴケグモなどの有毒(ゆうどく)な外来種が新聞やテレビなどで話題になりました。今回は特に外来植物についてとりあげ、どのようなかかわり方をするのが良いか考えてみましょう。
侵略的外来種と特定外来生物
外来種を考えるにあたり難しい言葉がでてきますので、はじめに解説します。外来種のなかでも繁殖力(はんしょくりょく)が強く、地域の自然環境に大きな影響を与え、生物多様性(たようせい)を脅(おびや)かすおそれのあるものを、特に侵略(しんりゃく)的外来種といいます。ヒアリやセア力ゴケグモも侵略的外来種のひとつです。世界で「侵略的外来種ワースト100」としてリストアップされている100種の中に日本の植物のイタドリやチガヤ、クズなどが選ばれています。
国は侵略的外来種の中でも特に生態系、人の生命・身体、農林水産業への被害が大きいものを、「特定外来生物による生態系等に係(かか)る被害の防止に関する法律」(略称外来生物法)という法律で、特定外来生物に指定しました。そして、それらの飼育や栽培、移動や輸入といった取扱いを規制し、特定外来生物の防除等をはかることにしました。特定外来生物はブラックパスやオオキンケイギクのように身近な場所にいるものも多く、その取扱いを間違えると、罰金などを科(か)せられます。
図 1 堤防改修前は力ンサイタンポポが優占していたが、改修後はほとんどがセイヨウタンポポに怠ってしまった土手。力ンサイタンポポ(矢印)が、わずかに残っている。
身近な外来植物をよく知る
外来植物とつきあっていくために、まずは身近な外来植物をよく知ってみてはいかがでしよう。徳島県ではたくさんのタンポポを見かけることができます。しかし、このタンポポには在来種(ざいらいしゅ)の力ンサイタンポポやシロバナタンポポなどと、外来種のセイヨウタンポポやア力ミタンポポが分布しています。現在当館では西日本の17府県と共同で、「タンポポ調査・西日本2020」を実施しています。5年ごとに実施し、今回で3回目の調査ですが、調査で出かけた時に地元の方々と話をすると、タンポポはほとんど外来種だと思っておられる方が意外に多いと感じます。たしかにタンポポでも最近外来種が増えています(図1)が、徳島県は調査した中でも一番外来種の割合が少ない県であることが分かっています。1970年代と古い時期から調査が行われている大阪府では、外来種の割合が増えてきていたのが、最近は減少傾向にあることもわかってきました。こうした調査に参加して、身の回りの外来種がどのようになっているのか調べて知ることはとても大切です。
外来種を駆除する
次のステップとしては、駆除(くじょ)をしたいと思われるかもしれません。気を付けないといけないのが、特定外来生物の場合は、処理の方法を間違えると法律違反になってしまうということです。例として文化の森の近くでよく見かけるオオキンケイギクの駆除の方法について紹介してみましょう。
オオキンケイギクは花がきれいなので、草刈りや除草の際にわざわざその株を残している例が見られます(図2)。おそらく特定外来生物に指定されていて、駆除しなければならない植物と知らないのでしょう。駆除のためには根から引き抜いてしまうのが一番ですが、その後そのまま移動させてしまうと法律違反になってしまいます。面倒(めんどう)ですが、引き抜いた根は現地で10日以上乾燥(かんそう)させて枯死(こし)させてからビニール袋などに入れて捨てる必要があります。また、その際タネが成熟(せいじゅく)していたら、それも移動することができませんので、タネが実る前に除草する必要があります。外来生物法では、それが広がるのを防ぐために、生きた個体の移動は禁止されていますが、逆にいうと枯れたり死んでしまったものはその制限がなくなります。また、植物の場合は根やタネのような繁殖にかかわる部分以外は法律の規定から外れますので、それらが含まれていなければ法律違反とはなりません。この規制される部分はそれぞれの種ごとに指定されていますが、オオキンケイギクの場合は、タネ(痩果(そうか))と根です。オオキンケイギクの場合はタネによって分布を広げているので、タネを作らせなければ、繁殖を抑えることができ分布の拡大を防ぐことができます。そのためには花の若い時期に刈り取る方法もありますが、筆者は次のような方法を提案し、実践しています。
図 2 キャンプ場で除草し残されたオオキンケイギク(左、矢印)とその拡大(右)。
図 1 堤防改修前は力ンサイタンポポが優占していたが、改修後はほとんどがセイヨウタンポポに怠ってしまった土手。力ンサイタンポポ(矢印)が、わずかに残っている。
①5月上~中旬のオオキンケイギクのタネが実る前の時期に花を摘(つ)み取る(図3)。②その花を約10%のク工ン酸の水溶液に浸(つ)け込む。その際ペットボトルを容器として使っても良いが、蓋(ふた)はゆるめておくこと。③4時聞から一晩後にはク工ン酸溶液は黄色になっているので、花を取り除き染色液にする。④木綿(もめん)や絹(きぬ)の布を染色液に浸けて、4時間以上おいておく。⑤ミョウバンを少量入れてよく混ぜ、1時間以上おき、布を水洗いして乾燥させる。これで布は鮮やかな黄色に染まります(図4)。この方法は草木染めですが、火で加熱しないので、子供で、も安心して作業できます。さらに、重曹(じゅうそう)のようなアルカリ性の液に浸けると、オレンジ色に染まりますので、二重染色や絞り染めなど工夫しながら、染めることができます。ク工ン酸や重曹は100円ショップで、掃除用の薬品として売られています。また、ミョウバンはスーパーマーケットなどで漬物の色を鮮やかにするために焼きミョウバンが売られていますので、簡単に入手できます。大事なことは摘み取った後から出てきた花が咲いた頃に繰り返し作業することで、タネを作らせないことです。花は冷凍保存できますので、たくさん採集できれば冷凍庫に保存していつでも草木染めができます。
図 3 オオキンケイギクの花を摘み取る前(左)と摘み取った後(右)
オオキンケイギクにとって草抜きは有効な駆除方法で、希少種(きしょうしゅ)がたくさん生える草地(くさち)で、は早急な対策が望まれますので、できるだけ早く草抜きによる駆除を行う必要があります。しかし、徳島市周辺の路傍ではオオキンケイギクがたくさん生えていて、草抜きで一株づつ駆除するのはたいへんなので放置されているのが現状です。ここで紹介した草木染めのために花を採集してタネを作らせない方法は、楽しみながら継続してオオキンケイギクの繁殖を抑えることができます。いったん入り込んだ外来種を完全に駆除するのはなかなか大変です。その場所で駆除できたとしても、周辺から入ってきますので、駆除を続けていくのも難しいのが現状です。しかし、楽しく活用しながら外来種を抑え込むことができれば、その影響を少しでも減らすことができます。皆さんも、外来種について良く知リ、いろいろな方法を試してみてはいかがでしょうか。
図 4 草木染めで用意するもの。ク工ン酸、ペットボトル、オオキンケイギクの花(左上)。ク工ン殴で描出した染色液に布をつける(右上)。黄色く染まった木綿のハンカチと無染色のハンカチ(左下)。ク工ン酸姻出液で染色後、重習で、アルカリ化して二重染色した工コバッグ(右下)。