Q.遺跡から出土した鉄製品はどのように保存するのですか。【レファレンスQandA】
考古・保存科学担当 植地岳彦
A.当館では資料を保存する際、劣化(れっか)しないように様々(さまざま)な工夫をしています。遺跡(いせき)から出土した考古資料では、特に劣化しやすい金属製晶や木製晶について、それぞれに適した保存処理(ほぞんしょり)が必要となります。今回は、出土鉄製自の保存処理の墓本を説明します。
鉄は、硬(かた)く弾力(だんりょく)があって、折り曲げることもできる等の特徴(とくちょう)をもちます。しかし、出土した鉄製自は、土の中に埋(う)まっていた間に腐食(ふしょく)し、簡単(かんたん)に割れたり剥(は)がれたりしてバラバラに壊れやすい錆(さ)びた状態の鉄になっています。さらに出土してからも保管環境が不適切であれば、腐食がより進むことがあります。出土鉄製品の保存処理の基本は、腐食を促進(そくしん)する原因を取り除くこと、そして壊れてバラバラにならないよう補強(ほきょう)することの2つが重要です(図1)。
図 1 保存処理された鉄製の斧(古墳時代 徳島市泉谷古境出土)
左: 1962年、出土直後の様子 中: 1980年頃の破損した状態右:保存処理で、脱塩処理と破場部分 の補強を行った状態 .処理後40年程鼠径週していますが、腐食は進んでいません。
鉄の腐食を促進する代表的な物質としては、塩化物イオンや水分などがあります。塩化物イオンは、鉄の腐食を連続的に発生させる非常にやっかいなものです。塩化物イオンを除去(じょきょ)することを「脱塩処理(だつえんしょり)」と呼び、当館では、薬剤(やくざい)を溶(と)かした液中に鉄製晶をひたす方法で脱塩処理をしています。その成否(せいひ)は鉄製晶の保存に大きく影響するので、長い時聞をかけて慎重に実施しています。
水は液体だけでなく空気中の水分も腐食の原因となるので、空調設備や調湿剤(ちょうしつざい)を使って、保存する場所の湿度を45%程度に保つことが重要です。また、気温の変動は湿度に影響するので、できるだけ一定の気温を維持(いじ)します。更には資料の温度と室温の差が大きいと結露が生じるので注意が必要です。
現在、博物館では、激しく腐食した古墳(こふん)時代の鉄製の斧(おの)の保存処理を行っています。脱塩処理工程において高差産の塩化物イオンを検出しており、時聞をかけて除去しています(図2)。保存処理完了後は適切な環境下で保存し、展示にも活用する予定です。
2 脱塩処理中の鉄斧
(古墳時代徳島市節句山2号墳出土)脱塩処理の薬剤を溶かした水に浸して、塩化物イオンを溶出します。安定するまでは、時聞がかかります。