博物館ニューストップページ博物館ニュース136(2024年9月15日発行)砂浜に生息するハチの標本(136号館蔵品紹介)

砂浜に生息するハチの標本(136号館蔵品紹介)

動物担当 外村俊輔

徳島県には東部から南部にわたって約390kmもの海岸線が延びています。このうち河口部の海岸には砂浜や干潟(ひがた)が広がっており、その環境に特有の動植物が多く生息しています。

ハチの仲間であるニッポンハナダカバチ(Bembixniponica)は、頭部にある上唇(じょうしん)という部位が長く伸びていることが特徴的な種で、その様子が「鼻が高い」ように見えることから和名が付けられています(図1)。砂の多い海岸や河川敷、公園の砂場などで7-8月に砂を掘って巣を作り、エサである小型のハエを捕えて運び込みます。開発に伴う砂浜の減少によって全国的に生息地が減っており、環境省の全国版レッドリストの絶滅危惧(ぜつめつきぐ)Ⅱ類に選定されています。

図1ニッポンハナダカバチの背面、側面、頭部

図1ニッポンハナダカバチの背面、側面、頭部

図1の個体は、徳島市大原町(おおばらちょう)にある大神子海岸(おおみこかいがん)で、国土交通省による環境調査の過程で2001年7月11日に採集されたメスです。翅(はね)や体毛の損傷がほとんどないことから、この時期が成虫が現れはじめていた頃であったことが推測されます。当館において本種の収蔵点数は数個体しかなく、当時の生息状況を推測する上で貴重な標本です。
筆者は先日、この標本の記録に基づいて現地を訪れたところ、今も多くの個体の生息を確認できました(図2)。本種は生息に適した砂地では多くの個体が巣を作りますが、砂地以外の場所では全く見られず、環境を選んで探すことが本種の発見につながります。吉野川の河口干潟をはじめとする徳島市の海岸は、護岸工事などによってその多くが改変されました。一方で、大神子海岸は公園の敷地内にあり、比較的自然に近い状態の海岸が残っています。

図2 ニッポンハナダカバチが生息する大神子海岸

図2 ニッポンハナダカバチが生息する大神子海岸

現存する砂浜には、本種のような希少な昆虫が生き残っているかもしれないので、今後も各地の海岸を調べて、標本や記録を残していく必要があります。

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