情報ボックス 魚の骨を調べる【情報ボックス】

動物担当 佐藤陽一

博物館の液浸収蔵庫(えきしんしゅうぞうこ)には、工チルアルコールやホルマリンに浸されたたくさんの魚類標本があります。これらの標本は、ある魚がある時点にある場所に生息していたことを証明する証拠として、大切に保管されています。しかし、標本はそれ以外にもいろいろな目的で利用され、ときには解剖されてバラバラになることもあります。今回は標本の利用の仕方のーつとして、魚の骨格の研究をご紹介しましょう。

皆さんは魚の骨を調べるというと、×線撮影や煮て骨を取り出すことを思い浮かべるかもしれませんが、ほとんどの場合、別な方法を用いて調べます。その方法を一言でいうと、肉を透明にして骨に色を着ける方法といえます。こうして作った骨格標本のことを透明標本と呼んであり、収蔵庫に保管されていた標本をいくつかの薬品で処理をして作ります(写真1)。

写真1 出来上がったニシン科のサッパの透明標本。左上にある2つの丸いものは眼球をおおう骨。

写真1 出来上がったニシン科のサッパの透明標本。左上にある2つの丸いものは眼球をおおう骨。

 

しかし、骨格を詳しく調べるためには、これでもまた不十分です。いくら透明になっているとはいえ、骨格の細部を観察するためには、透明な筋肉でさえ邪魔(じゃま)になります。また、骨は互いに重なり合っているので、奥にある骨を観察するには手前の骨を取り除かねばなりません。そういうわけで、結局は、解剖することになります。その際、双眼実体顕微鏡(けんびきょう)の下で広大しながら、メスやハサミ、ピンセットなどを用い、注意深く解剖します(写真2)。骨には長さが1mmに満たないけれども重要な骨があります。それらを見落とさないようにするために、双眼実体顕微鏡は必需品です。とくに、イワシ類のような原始的な魚を解剖するときは、高等な魚に比べて骨の種類や個数が多い上に、骨そのものが、紙のように薄いので、細心の注意を払わなければなりません。解剖器具も、眼料のお医者さんが、使うルビーでできた小さなメスや、スプリング状の特殊なハサミを使うこともあります。また、骨は手当たり次第に外すのではなく、あごの骨格や尾鰭(おびれ)の骨格というように、機能的にまとまった複数の骨をセットとして外すのがふつうです。外した骨格は、セットごとにスケッチを描くなどして記録に残し、解剖を終わります。しかし、解剖し終わってバラバラになった骨も捨てられることはなく、骨格標本として収蔵庫で大切に保管されます(写真3)。

写真2 双眼実体顕微鏡下での解剖。

写真2 双眼実体顕微鏡下での解剖。

写真3 解剖し終わったサッパ属の一種の透明標本。

写真3 解剖し終わったサッパ属の一種の透明標本。

さて、解剖は終わりました。でも、これで作業がすべて終わったわけではありません。種ごとに骨格を比較しながら、ある種にはこの骨があるのに、別な種にはないとか、ある種では、骨Aと骨Bが癒合(ゆごう)しているのに、別の種では分かれたままである、といったような特徴を取り出し、数値化します。これをコンピュータを利用した分析にかけ、この種はどの種に類縁が近いといった関係を明らかにしてゆきます。その結果は、魚類の進化の筋道をたどったり、化石魚類の形態の復元、あるいは魚類をどのような分類体系に分類するかといった問題の解明に利用されます。博物館の部門展示室には、魚類を含む脊索(せきさく)動物の系統樹(けいとうじゅ)が展示されています。これは多くの人たちによる、以上のような方法を用いた研究成果をまとめたものなのです。

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