博物館ニューストップページ博物館ニュース025(1996年12月1日発行)高知県安田町唐浜の鮮新世貝化石(025号CultureClub)

高知県安田町唐浜(とうのはま)の鮮新世(せんしんせい)貝化石【CultureClub】

地学担当 中尾賢一

はじめに

九州の宮崎平野から関東地方南部にかけての太平洋沿岸の地域には、新生代第三紀鮮新世(約520~ 160万年前)の亜熱帯~温帯の海で堆積(たいせき)した地層が分布していて、その中にはモミジツキヒ(図1) など、当時の暖流域(だんりゅういき)に生息していた貝類の化石が多く含まれています。これらは、昔から研究が進んでいる静岡県掛川(かけがわ)地方にちなんで掛川動物群と呼ばれています。これによく似た化石群は、台湾や沖縄の同時代の地層にもあります。また、現在の黒潮域の貝類群と共通性が高いので、掛川動物群は、現在の太平洋沿岸に分布する貝類群の先がけとみなされています。

図 1 モミジツキヒ。産地 白宮崎県川南町通浜

図 1 モミジツキヒ。産地 白宮崎県川南町通浜

 

残念ながら徳島県内には掛川動物群に相当する化石群は産出しませんが、高知県の室戸半島西部には、掛川動物群を富む地層が数か所にわたって点々とみられます。ここでは、その中の代表的な産地である唐浜と、そこで見られた貝化石についてご紹介します。

唐浜地域の唐ノ浜層群穴内(あなない)層

唐浜は高知県安田町の字名で、近くに第27番札所の神峯寺(こうのみねじ)があります。化石を産するのは、砂岩主体の地層(唐ノ浜層群穴内層)です。砂岩は、部分的に特に固くなった部分(ノジュール)を除けば、釘で掘ることができるほどの柔らかさです。化石自体ももろくなっているものの、貝殻そのものです。
化石産地として昔から有名で、古くは1884年の文献もあるそうです。今でも採集や研究のために、各地から地質・古生物学の研究者などがこの地を訪れ、多くの論文が公表されています。また、地元の人にとっても、貝殻が多量に産出することは以前からよく知られていたようで、「安芸の喰わず貝」という弘法大師にまつわる伝説が残されています。以前には、お遍路さん向けのみやげ物として売られていたこともあったようです。

貝化石とその産状

唐浜では、最近になって農道の工事が行われました。これに伴って、いろいろな貝化石が産出し、その中には興昧深い産状を示すものも多くありました。その中のいくつかを解説します。
力ミフスマガイ:アサリやハマグリに比較的近縁な二枚貝です。殻が薄くふくらみが強いので、露頭ですぐに判別できます。唐浜では、多くの個体が生息時の姿勢を保った状態で産出します(図2)。このような産状から、力ミフスマガイは死後どこか遠く離れた場所から運ばれてきたものではなく、この場所の砂の中にもぐって生息していたことがわかります。

図2 生息姿勢を保持 したカミフスマガイ。

図2 生息姿勢を保持 したカミフスマガイ。


ヨコヤマツツガキ:石灰質のパイプを持った二枚貝です(図3)。パイプの根本(二枚貝にとっては前端(ぜんたん))には多数の短い突起があります。また、化石ではなかなかわかりませんが、特別に保存状態のよい標本や現生の近縁種(きんえんしゅ)の標本を見ると、パイプの先端(二枚貝にとっては後端(こうたん))はアサガオの花のように開いています。一見しただけでは二枚貝には見えませんが、掘り出して前端近くの最もふくらんだ部分を見ると、二枚の殻が残されています。ヨコヤマツツガキも、海底面に対して直立~高角度の姿勢をとっていることが多く、この場所に生息していたものと考えられます。

 

図 3 地層中に見られるヨコヤマツツガキ (断面)。

図 3 地層中に見られるヨコヤマツツガキ (断面)。

 

キバウミニナ:熱帯~亜熱帯のマングローブ林に生息する大型の巻貝です。日本列島では、おもに西表(いりおもて)島と石垣島に生息しています。唐浜からは、キバウミニナとされる大型のウミニナ科の化石(図4)がときおり産出します。唐浜の穴内層は陸棚(りくだな)の地層と考えられるので、キバウミ二ナやその近縁種が生息するような汽水(きすい)環境とはかなり堆積環境が違います。おそらく、汽水域(マング口一ブ林?)に生息していたものが、死後殻だけになって海のより深いところに運搬されて堆積したものでしょう。死殻の中にヤド力リが住み着くこともあったのかもしれません。そう思ってみてみると、たしかにこの種の化石はどれも保寄が悪く、必ずといってよいくらい破損していたり侵食されています。唐浜産のキバウミ二ナは、穴内層の堆積したころ、暖流の影響(えいきょう)が今以上に強かったことを示しているのかもしれません。

 

図 4 保存のよいキパウミ二ナ (単体分離標本)。

 

おわりに

穴内層のような新しい時代の地層は、貝化石の保存状態も一般によく、地層も固くなっていないので、地層や貝化石の産状の観察に適しています。そこで、適切な指導者が得られれば、地層や化石の見掌におすすめできる場所のひとつです。
しかし最近、日本各地で化石や鉱物の採集にともなって、自然破壊や地元の人とのトラブルにつながりかねない事例が増えています。最低限のマナーとして、割った石は片づけるとか、ゴミは必ず持ち帰るとか、探集は必要最少量にとどめることなどはいうまでもありませんが、特に工事現場の近くに立ち入るときには、じゃまにならないよう気をつけ、必ず許可を得るようにしましょう。

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