博物館ニューストップページ博物館ニュース023(1996年7月1日発行)Q.谷田蒔絵(たにだまきえ)とは(023号QandA)

Q.谷田蒔絵(たにだまきえ)とはどの様なものですか?【レファレンスQ&A】

美術工芸担当 大橋俊雄

瓜密陀絵香合。 左:身 右:蓋表

瓜密陀絵香合。 左:身 右:蓋表

 

Q.谷田蒔絵(たにだまきえ)とはどの様なものですか?

 

江戸時代に、谷田忠兵衛(ちゅうべえ)という人が作ったとされる漆塗(うるしぬ)りの作品、またその技去を指して、そう呼んでいます。

明治以降の文献によると、谷田忠兵衛は江戸の人で、宝暦(ほうれき)(1751-1764)のころ阿波の蜂須賀家に召し抱えられたとされています。しかし古い記録がないので、いつ頃の人でどこにいたのかなど、正確なことはわかっていません。

蜂須賀家の家臣に谷田家があり、その初代が忠兵衛なので、彼が谷田蒔絵を手がけたとする説があります。しかしこの家の成立書(藩に提出した由緒書)を見ると、忠兵衛は延宝(えんぽう)6年(1678)に絵師として抱えられた人で、漆器(しっき)造りとは関係がないようです。漆器造りは身分の低い職人のする仕事なので、漆器を造った忠兵衛は藩の記録に残されなかったのかも知れません。

谷田蒔絵は、おもに密陀絵(みつだえ)という技法をもちいます。密陀給とは、顔料(がんりょう)を油で練って描いた油絵ですが、乾燥をはやめるために油に密陀僧(みつだそう)というものを加えます。なお密陀絵とよくにた技法に、漆絵というのがありますが、これは色のついた漆で描く技法で、顔料は使いません。漆絵の場合、漆の性質上赤、黒、黄、緑、褐色の五色しかありませんが、密陀絵ではかなり自由に色が使えます。

谷田蒔絵と言われるものを見ますと、たとえば箱類では、外面に朱漆を塗っています。そして草花を描きますが、これは密陀絵と漆絵の両方を使っています。また、葉脈や細い葉を金蒔絵で描き、葉や茎の輪郭や線を金蒔絵で引き、葉の表面には次に述べる金こがしをほどこしています。箱の内面は、黒漆塗りに、小さい金箔(きんぱく)片を一面にこすりつけたような状態にしています。これは金(きん)こがしと呼ばれる技法ですが、どうすれば出来るのか、まだわかっていません。

谷田蒔絵についてはたくさんの問題があります。まず、間違いなく谷田忠兵衛の作である作品が1点、も知られていません。谷田蒔絵とされている作品は、どれも作者の名前がなく、伝来もはっきりしていません。東京国立博物館にある秋草(あきくさ)密陀絵食籠(じきろう)は、外箱に「谷田蒔絵」の墨書があリ、上に述べた特徴をもった見事な作品ですが、作者の裏付けがとれません。サントリー美術館の黄萄葵(とろろあおい)密陀絵食籠は、谷田忠兵衛作と伝えられますが、こちらには谷田蒔絵の特徴がありません。また、特徴はありながら谷田忠兵衛作といわれていない作品もります。谷田蒔絵は、作者についての手がかりがなく、確かな作品もわからない謎の漆芸(しつげい)技法であり、作品です。しかし存在そのものを否定することはできません。今後の調査にかかっているといえます。
大橋俊雄(学芸員:美術工芸)

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