山にすむドジョウ-ナガレホトケドジョウ-【野外博物館】
動物担当 佐藤陽一
ナガレホトケドジョウという体長6cmほどの、あまり聞きなれない名前のドジョウをご存知でしょうか(図1)。聞きなれないのも当然で、1993年にこの名前が付けられたばかりです。たぶんその姿をご覧になった方はほとんどいないでしょう。でも徳島県にはわりと普通に生息しており、阿讃山脈を源流とする吉野川北岸の支流にとくに多く生息するほか、穴吹川(高橋弘明氏私信)や鮎喰川、もっと南の園瀬川、那賀川、桑野川、椿川、日和佐川などでも確認されています。今回はそのちょっと変わったドジョウを紹介しましょう。
図1ナガレホトケドジョウ(穴吹川産)。高橋弘明氏撮影、水槽内写真。
ドジョウの仲間(コイ目ドジョウ科)には口ヒゲがあリますが、ホ卜ケドジョウ類(属) では、それが4対あるのが特徴です。従来、この類は北海道に分布する工ゾホ卜ケドジョウと本州四国に分布するホトケドジョウの2種とされてきました。それが最近になって徳島県を含む瀬戸内海周辺に分布するホ卜ケドジョウが別種だと認められるようになり、ナガレホトケドジョウという別の名前が与えられるようになったのです。
このドジョウと徳島との関係は深く、名前こそ付けなかったものの、徳島のホ卜ケドジョウが本州東部のそれと異なっていること最初に気付いたのは、当時徳島農業高校におられた故藤田光先生と大川健次先生でした。このことは「日本産ホトケドジョウの地理的変異について(予報)」として1975年の魚類学雑誌に発表されています。大川先生たちの徳島淡水魚研究会は、今でもナガレホ卜ケドジョウの分布など積極的に調査しています。
さて、ナガレホトケドジョウが他のドジョウ類ともっとも異なるのは、その生息場所です。普通ドジョウというと沼や用水路にいることを思い浮かべますが、ナガレホトケドジョウの場合、山の中の源流付近の沢に限られています(図2)。水量が少なく、水深は数cmしかないこともあリ、川底は岩やレキでおおわれています。森の中なので、昼なお暗いといった感じです。当然、そんな場所に他の魚はすめません。せいぜいハゼ科の力ウヨシノボリとコイ科の力ワムツB型の幼魚がいればよい方で、魚はナガレホ卜ケドジョウだけということも珍しくありません。
図2 椿川支流の生息場所(阿南市椿町〕
生活史はほとんどわかっていませんが、春ごろに産卵し、一生をほぼ同じ場所で生活するものと思われます。水槽で飼育すると、わリと泳ぎ回りますが、野外ではたいてい石の下にひそんでいます。体形をみると、全体に細長く、頭部は上下に押しつぶしたような形をしており、石のすき間に入り込むのにいかにも都合がよさそうです。手綱をひそんでいそうな石の横に当てがい、石をめくって、手で追い込むと簡単に採集できます。皆さんも近くの山ヘ出かけたら、ナガレホ卜ケドジョウがいないか探してみてください。