これは何の葉ですか?【レファレンスQandA】
植物担当 小川 誠
A. 博物館に勤めていると「これは何か鑑定(同定)してくれ」という問い合わせがよくあります。博物館では夏休みの最後に、子供たちが作った標本の名前を調べる会を開催していますが、それも同じ作業です。実物(標本)や写真を見ながら、それが何か探っていくのですが、植物の場合だと花が種類を見分ける決め手になるので、花がない場合はなかなか苦労します。そうした同定依頼で持ち込まれた、あるケースを紹介しましょう。
持ち込まれた葉(再現したもの)
葉の縁の拡大
それは長さが1cmくらいの小さな葉でした。あるものの中に混じっていたのもなので、どこに生えていたのかとか、木なのか草の葉なのかといった基本的なことすらわかりませんでした。また、葉の一部が破損し変色していて、においは残っていませんでした。現物は返してしまいましたので残っていませんが、それは右の写真のようなものでした。
徳島県には2800種類を越える種子植物が生えています。葉脈(ようみゃく)の様子から可能性の低い裸子植物や単子葉植物を除いても2000種類は越えています。栽培されているものを含めるともっと多くになるでしょう。まずやらなければならないのは、そうした多くの中から、できるだけ種類を絞り込むことです。
葉から名前を調べる検索図鑑がいくつかあって、葉に関する特徴からその植物を絞り込むことができます。たとえは、ヨモギのように葉に切れ込みがあるのかないのか、エノキのように葉が互い違いについている互生(ごせい)なのか、ハナゾノツクバネウツギのように向き合って付いている対生(たいせい)なのかなどの特徴を用いながら植物の種類を絞り込んでいきます。
ところが、葉1枚では得られる特徴に限りがあります。そもそも、これが一つの葉であるという保証はなく、カラスノエンドウのように1つの葉(複葉)は小さな葉(小葉)が集まってできているもので、その小葉を見ているのかもしれません。
半分あきらめながら葉を実体顕微鏡(じったいけんびきょう)で拡大して、特徴がないか探しました。すると葉の先端が欠けているのではなく、へこんでいることがわかりました。また、葉の縁には丸いものが見えました。これは他の植物には見られない特徴です。そこで葉の先のへこんでいる植物を探し、葉の縁を顕微鏡で拡大して確認したところ、サンショウであることがわかりました。サンショウは食卓に上るポピュラーな植物で、あの独特のにおいとまるごと1枚の葉があればすぐにわかりますが、小葉1枚だと探し出すのに苦労しました。