流れ寄る種の話【情報ボックス】

植物担当 茨木靖

西表(いりおもて)島に行ったときにヤシのような木に大きな実がなっているのを見ました(図1)。はじめは「おや?木にパイナップルがなってるのかな?」と思いましたが、これはアダンという木で、パイナップルとは別物です。このアダンの実は食べられるし、芽もテンプラにして食べることができます。食べてみるとタケノコに良く似た味と食感でなかなかおいしいものでした。

図1 アダンの木。パイナップルのような実が印象的。

図1 アダンの木。パイナップルのような実が印象的。

図2漂着したアダンの実

図2漂着したアダンの実

 

西表島をはじめ八重山(やえやま)諸島の海岸に行くと、アダンだけでなくモンパノキ、ハスノハギリ、オオハマボウ、クサ卜ベラなどが林をつくっています。これらの木々にはおもしろい共通点があります。それは、みんな海流を利用して種を散布する植物たちだということです(図2)。

これまでの報告では、これらの植物の種や果実は、何ヶ月も時には何年も水に浮いていられることが知られています。それにしても、この種や果実、いったいどうしてそんなに長く水に浮いていられるのでしょうか?図3のココヤシの実を見てください。何か繊維(せんい)のような物が見えますね。じつは、これが浮くための特別な工夫なのです。この他にも例えば種のまわりをコルク質の層が覆(おお)っていたり、種の中に空洞(くうどう)があったりして浮かびやすくなっているものなどがあります。

図3 漂着したココヤシの実。表面がはがれて中の繊維が見えている。

図3 漂着したココヤシの実。表面がはがれて中の繊維が見えている。

こうして黒潮などの海流にのった種は徳島県の海岸にもやってきます。室戸岬がじゃまをするせいかあまり量は多くありませんが、ココヤシやゴバンノアシなどの漂着も知られています。また、徳島県に生えているものでは、ハマナタマメ(図4)、ハマユウ、ハマボウなどが海流散布をする植物です。

図4 ハマナタマメ

図4 ハマナタマメ

ところで、海流散布にはどんな利点があるのでしょうか?海に流れ出た種が無事にどこかの海岸について芽を出す確率はとても低いようですが、たとえば火山の爆発で小笠原にできた西之島新島に2年後には2種の海流散布植物だけがたどり着き生育していたという記録もあります。このように海流で散布すると、とても遠くに種を運ぶことができますし、運良くできたばかりの島などに到着すれば、太陽の光も水も独り占めできますので大変な利点があるのです。

もし、気候が今より暖かくなったら、徳島の海岸もヤシの林になるかもしれませんね。

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