Q.川原の石の名前を調べる方法を教えて下さい【レファレンスQ&A】
地学担当 中尾賢一
A. 川原には、いろいろな色や形の石ころが転がっています。拾って持ち帰って名前を調べようとする人も多いでしょう。ところが岩石図鑑を広げても、なかなか岩石の名前はわからないものです。理由はいくつかあります。
●岩石の種類は、まず成因で大分けし、中に入っている鉱物の種類や組織によって細分する方法がとられています。また、岩石の名前をきちんと調べるには、薄片(はくへん)標本(プレパラート)をつくって、中に入っている鉱物の種類や、鉱物どうしの関係を偏光顕微鏡(へんこうけんびきょう)で観察することになります。場合によっては化学分析も必要です。手慣れた人にとっても、肉眼やルーペで調べるやりかた(肉眼鑑定)には限界があります。
●同じ種類の岩石でも、産地や時代によって見かけにかなりの遣いがあります。また、露頭(ろとう)(がけ)で掘り出したものと川原に転がっているもの、新鮮なものと風化したもの、結晶の粒が大きいものと小さいもの、脈のあるものとないもの、濡れているものと乾いたものでもそれぞれ見かけが蛮わります。同じ種類の岩石が遣うものに見えたり、遣う種類のものが同じように見えたりすることがよくあります。生物の図鑑と比べると、図や写真があまり役に立ちません。
●日常的に目にする岩石の種類はそう多くありません。ところが図鑑の中には、かなり特殊なものまで掲載されているものもあるため、必要以上に目移りすることがあります。また、川原に落ちている人工物(セメントやレンガ、鉱滓(こうさい)など)を岩石と見まちがうこともよくあります。
●同じ岩石に対して違った名前が付くことがあるので、複数の図鑑を見ていると混乱することがあります。たとえば、徳島市周辺でよくみかける「阿波の青石」は「緑色片岩(りょくしょくへんがん)」とも「塩基性片岩(えんきせいへんがん)」とも呼ばれます。意味はすこし違いますが、たいていの場合、どちらも正解です。
このように岩石の名前調べはたいへん難しい作業で、地学担当の私でもはっきりした結論が出ないことがよくあります。肉眼鑑定のさいには、だれが見ても全部に名前が決まるとは限らないことをふまえた上で、次のような点に注意して観察するとよいでしょう。
◯岩石の中に粒は見えているか?もし見えていたら、それは何かの結晶(鉱物)なのか、それとも礫や砂粒なのか?
◯岩石全体に方向性(すじ模様や縞(しま)模様)はあるか、それとも均質か?
◯全体の形は丸いか、平べったいか、ごつごつしているか?
◯表面はつるつるしているか、ざらざらしているか?穴はあいていないか?
◯どんな色をしているか?透明感はあるか?
◯手にとってずっしり重いか?それほどでもないか? (この判断は意外に難しい)
◯似たような石を集めてグループ化してみる
◯川の上流にはどんな地層や岩石が分布しているのかを調べてみる
岩石に親しむいちばんよい方法は、多くの岩石を見て、触って感触を確かめたり、手にとって重さを感じたり、他の石と比べてみたり、割ってみて硬さや割れ方をみることです。自前の標本セットをつくるのもよいでしょう。図鑑を兼ねた手引き書として、現在最もおすすめできるのは次の本です(写真はその表紙)。
◆かわらの小石の図鑑 日本列島の生い立ちを考える〈千葉とき子・斎藤靖二著〉東海大学出版会[2500円+消費税]
この本では関東地方の河川(荒川(あらかわ)、多摩川(たまがわ)、相模川(さがみがわ))の川原の小石を取り上げていますが、県内でもじゅうぶん使えるでしょう。中学生から一般の大人の方に向いています。