博物館ニューストップページ博物館ニュース044(2001年9月16日発行)県南地域に生息するアカメ(044号館蔵品紹介)

県南地域に生息するアカメ【館蔵品紹介】

動物担当 佐藤陽一

 

ア力メといえば、お隣の高知県の四万十川(しまんとがわ)などが有名ですが、徳島県にも生患していることはご存じでしょうか。これまでに、日和佐町の日和佐川、海南町の海老(えび)ヶ池(いけ)や浅川湾など、県南地域でごくまれにれに捕獲(ほかく)されてきました。聞き取り調査によっても、せいぜい数年に1個体獲(と)れるかどうかということですので、生息数は少ないと考えられます。ところがここ2~3年、県南の沿岸に設置された定置網(ていちあみ)に入り込み、漁獲(ぎょかく)されることが多くなり、10個体以上が漁獲されたようです。ここにご紹介するア力メは、その中の1個体で、海部町の鞆浦(ともうら)漁協が漁獲したもので、現在、博物館で冷凍保存されています。

 

図1 アカメ 。2000年5月17日、徳島県海南町那佐湾で漁獲されたもの(標準体長59cm)。 眼が反射で光って見える 。

図1 アカメ 。2000年5月17日、徳島県海南町那佐湾で漁獲されたもの(標準体長59cm)。 眼が反射で光って見える 。

 

ア力メは黒潮に面した地域の河口(かこう)とその周辺海域に生息する日本の固有種で、とくに宮崎県と高知県に多く生息します。これらの地域以外では、鹿児島県や大分県、徳島県、和歌山県、静岡県などて、散発的に記録されるだけです。スズキ科に近いア力メ科の魚で、体長は約1mになります。名前の通り、瞳(ひとみ)が赤いのが特徴です。方向によっては眼が反射で、光っているようにみえるので、徳島県ではメヒ力リとも呼ばれています。
本種の生活史は不明な点もありますが、産卵は7月頃に海域で行うようです。生まれてまもなく、河口付近のアマモ場(ば)にやってきて、そこで翌年の春まで過ごします。この時期は、ショウブのような形のアマモの葉に平行になるように、さか立ちした姿勢で漂うように泳ぎます。その後も近くの河口や内湾の汽水域(きすいいき)で成長しますが、成魚になると、外海に面した岩礁海岸で過ごすことも多くなります。しかし、台風が通ったあとなどに増水した河口付近に集まってきます。これは工サとなる魚を捕(と)るためらしく、このような時、夜釣(よづ)りで釣られる機会も増える そうです。

約2年で50cmほどに成長するので、写真のア力メは2~3才ということになります。1mくらいになるのに、10年くらいかかると考えられています。なお、日本のア力メでは不明ですが、インド洋東部から西部太平洋にかけて分布する近縁種Lates cariferでは75cmを境としてオスからメスへと性転換します。

図 2 腹びれに付いていた寄生虫(甲殻類の仲間の等脚類の一種)。きちんとひれの模様の方向に合わせた姿勢でくっついているのが‘興味深い。

図 2 腹びれに付いていた寄生虫(甲殻類の仲間の等脚類の一種)。きちんとひれの模様の方向に合わせた姿勢でくっついているのが‘興味深い。

 

現在、ア力メは環境庁の準絶滅危慣種(じゅんぜつめっきぐしゅ)に、高知県では絶滅危慣IA類に指定されています。ア力メを守るためには、ア力メの子どもが成育する場として必須な河口付近のアマモ場の保全がとくに大切です。また最近では、希少ペットとしてア力メの子どもが高額で、取り引きされるようになったことから、乱獲の脅威(きょうい)にもさらされています。

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