徳島市眉山の鉱物【館蔵品紹介】
地学担当 中尾賢一
徳島市の眉山(びざん)は、ロープウ工イや遊歩道、登山道のある山として市民に親しまれています。この山をつくっている岩石は三波川帯(さんばがわたい)の結晶片岩(けっしょうへんがん)類で、「阿波の青石」(緑色片岩)はその中のひとつです。これ以外にもいろいろな種類の結晶片岩がみられ、その中からは標本としておもしろい鉱物(こうぶつ)も産出します。
眉山からたくさん報告されている鉱物のうち、ここでは館蔵品をもとに3種類について解説しましょう。
ルチル(金紅石(きんこうせき))
酸化チタンの鉱物のひとつで、高い屈折率(くっせつりつ)(最高2.9)をもっています。長さ数mmの小さな結晶は各地で産出しますが、大きな結晶は国内ではあまりありません。
眉山では、以前に大型のルチルを産出したことがあります。図1はそうしたもののひとつで、石英脈の中にはいった長柱状結晶です。採集時期は不明ですが、おそらくかなり古い標本で、眉山産のルチルとしても最大クラスです。現在では、この鉱物の産地は残っておらず、観察も採集も全くできなくなっています。
図1 ルチル結晶の長さ5.5cm
満(まん)ばんざくろ石(スペサルティン)
ざくろ石(ガーネット)にはさまざまな種類のものがありますが、眉山から産出するものは満ばんざくろ石で、マンガンとアルミニウムが主成分です。眉山産の結晶は斜方(しゃほう)12面体(ひし形が12個集まってできる立体)で、光沢(こうたく)が強く、多くは黒っぽい色をしています。あまり大きなものはなく、ほとんどの結晶の直径は5mm以下です。
もともと石英(せきえい)片岩に含まれているものですが、硬くて風化に強いので、母岩から分離した結晶を土の中から拾(ひろ)うことができます。
図2 満ばんざくろ石。下列中央の結晶の長径4.5mm
紅簾石(こうれんせき)
赤紫色(あかむらさきいろ)をした長柱状の鉱物です。マンガンを含んでおり、しばしば他のマンガン鉱物といっしょに産出します。結晶は小さすぎて肉眼では見えないことが多いのですが、眉山のものには肉眼や虫めがねでみて結晶の形がわかるものがあります。
紅簾石を含んだ石英片岩は紅簾石石英片岩(紅簾片岩)とよばれています。淡紅色のきれいな石で、徳島城の石垣(いしがき)の一部にも使われています。四国の三波川帯ではそれほど珍しい岩石ではありません。
中腹の山道沿いの露頭(ろとう)では、かなり以前に誰(だれ)かが大量に標本採集をしたらしく、紅簾石を最も多く含む部分が大きく掘られてくぼんでいます。
図3 紅簾石石英片岩の中の紅簾石結晶。中央部の結晶の長さ約1.3mm