博物館ニューストップページ博物館ニュース054(2004年3月25日発行)洞窟の生きものたち(054号野外博物館)

洞窟の生きものたち【野外博物館】

動物担当 田辺力

地下は好奇心(こうきしん)をそそられる世界です。火星に探査機(たんさくき)が飛ぶ今になっても地下は謎(なぞ)に満ちています。地下には洞窟(どうくつ)などのさまざまな大きさのすき間があります。

あまリ知られていないのですが、種類は少ないながら洞窟や地下に住む生物がいます。その代表としてヤスデがいます。ヤスデはム力デに近い動物で、多くの種類は地表の落ち葉の中に住んでいるのですが、一部のグループが地下に適応(てきおう)しているのです。図1は徳島県上那賀町(かみなかちょう)の洞窟、日店洞で撮影(さつえい)したキウチオビヤスデです。湿(しめ)った岩盤(がんばん)にたくさん群がり、表面の有機物(ゆうきぶつ)のようなものを食べていました。写真のように洞窟や地下のヤスデには色の白いものがいます。外骨格(体の表面をおおっている殻)に色素(しきそ)がなく、その主成分であるカルシウムの白が見えているためです。暗黒の世界では体に色をつけている必要はないためでしょうが、なんとも神秘的(しんぴてき)な装(よそお)いです。採集したキウチオビヤスデを洞窟の外に持ち出したところすぐに死んでしまいました。おそらく洞窟の中と外の温度差が原因で死んでしまったのではないかと思われます。温度の安定した洞窟に住むヤスデは温度差に敏感(びんかん)なのでしょう。

図1 キウチオビヤスデ。体長約2cm。日店洞にて撮影

図1 キウチオビヤスデ。体長約2cm。日店洞にて撮影

冬場だけですが、オオゲジも洞窟で見られる生きものです。オオゲジはム力デの仲間で、暖かい時期は地表で活動していますが、冬は地表よりは温度が高くしかも安定した洞窟の中で越します。図2は阿南市の洞窟、家具(かぐ)の窟(いわや)で越冬中(えっとうちゅう)のオオゲジです。私はまだ見たことはありませんが、100匹以上のオオゲジが一つの洞窟に集まることがあリます。壁面(へきめん)にびっしりとオオゲジが張り付いた光景は一種異様な迫力(はくりょく)ではないかと思われます。
洞窟や地下は地表に比較すると気温や湿度が年間を通じて安定しています。これは生物の立場からすると都合(つごう)のよい面もあると思われます。一方、食べ物に関しては洞窟や地下は量、種類とも地表に比べると桁違(けたちが)いに少ないことは間違(まちが)いないでしょう。地下や洞窟にいるヤスデにとっては、コウモリのフン、湿った岩盤上の有機物、地上からまいこむ落ち葉などの有機物に食べ物は限定されます。地下牲の生物の種数が少ない大きな原因は食べ物の量と種類が少ないことにあると思われます。

図2 阿南市、家具の窟で越冬中のオオゲジ。足を除いた胴体の長さ約7cm。

図2 阿南市、家具の窟で越冬中のオオゲジ。足を除いた胴体の長さ約7cm。

徳島県には洞窟がたくさんあり、地下性の生物を観察するには適したところです。徳島に洞窟が多い理由は、石灰岩(せっかいがん)地帯が多いことと関係があります。長い年月の間に雨水で石灰岩が溶かされて地下にすき間ができるからです。
洞窟の中はとても静かです。聞こえてくるのは自分や同行者のたてる物音かしゃべリ声、ときおりのコウモリの羽音(はおと)や「チィ」という小さな鳴(な)き声ぐらいです。暗く静かな世界は自然と人を集中させるようです。迷路(めいろ)に迷い込んだり縦穴(たてあな)に落ちたりしないかという緊張感(きんちょうかん)もあリます。1時間ほど洞窟内にいて外に出るとどっと疲(つか)れがでます。そしてその疲れの中で不思議な充足感(じゅうそくかん)に包まれます。洞窟観察の楽しさはここにあると思います。

なお、洞窟での観察は危険(きけん)です。深い縦穴に落ちてしまうと命を落としかねません。洞窟にもぐる場合はあらかじめ経験者(けいけんしゃ)に相談し充分(じゅうぶん)に準備してから出かけましょう。また、経験を積(つ)むまでは単独(たんどく)で、洞窟にもぐることは避けましょう。

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