博物館ニューストップページ博物館ニュース057(2004年12月1日発行)Q.どうやって虫の害を防いでいるの?(057号QandA)

どうやって虫の害を防いでいるの?【レファレンスQ&A】

保存科学担当 魚島純一

Q

Q. 先日、衣替えをしていたら、お気に入りの洋服が虫に喰われて穴があいてしまっているのに気がつきました。博物館にも衣装などたくさんの資料があると思うのですが、いったいどうやって虫の害を防いでいるのですか?

A

A.お気に入りの服が虫に喰われてしゃて残念でしたね。虫は体は小さいのになかなか侮(あなど)れず、博物館でも大きな問題の一つです。
奈良の正倉院(しょうそういん)では、毎年気候のよい秋に、すべての宝物(ほうもつ)を点検する作業が行われていることは有名ですね。
博物館には、虫が好んで食べそうな材質の資料が数え切れないほど保管されています。小さなものものもあれば大きなもの、重いものもたくさんあります。実際には、正倉院の点検やご家庭の衣替えのように、1点ずつ点検するような作業は不可能に近い状態です。
そこで、博物館では、収蔵庫(しゅうぞうこ)と呼んでいるスペースに入れる前に、資料についている虫や力ビを確実に退治(たいじ)できるように、ガスを使って燻蒸(くんじょう)という処理を行っています。
収蔵庫の温度(おんど)や湿度(しつど)は、資料ができるだけ傷(いた)まないようにするため、年聞を通して安定した状態になるように空調(くうちょう)で管理されています。おかげで、資料にとってはとても快適な保存状態が保たれているのですが、この環境は虫にとっても絶好の環境になってしまいます。ですから、このスペースに資料を運び込む前に、資料の表面についている虫や力ビはもちろんのこと、資料の奥深くに潜(ひそ)んでいる虫の幼虫や卵までも一気に退治するために燻蒸剤(ガス)を使うのです。

ところが、これまで文化財用に使われてきた燻蒸剤の臭化メチルが、地球のまわりのオゾン層を破壊(はかい)してしまうフロンガスの一種であるために、モントリオール議定書(ぎていしょ)と呼ばれる取り決めにより、2004年いっぱいで製造と使用が禁止されることになってしまいました。そこで、これまでの爆蒸に代わるいくつかの方法が提案されています。

一つは,臭化メチルに代わる薬剤(やくざい)を使う方法で何種類かが実用化されています。

もう一つは、薬剤を使わずに虫を退治しようとする方法で、二酸化炭素(にさんかたんそ)を使ったり、窒素(ちっそ)などで虫を酸欠(さんけつ)にして退治したり、低温や高温の温度によって退治する方法などがそれです。しかし、薬剤を使わない方法は力ビにはまったく効果がないので、力ビを退治するためには、少なくとも一度は薬剤を使う方法でこれまで同様に燻蒸する必要があります。

徳島県立博物館では、今のところ,植物標本の一部を低温処理に、また小型の資料の一部を窒素を使った脱酸素処理(だつさんそしょり)に変える準備を進めています。近い将来、さらに大型の資料への脱酸素処理の適用も考えています。
もちろん、日常的には、一般家庭の洋服だんすと同じように防虫剤(ぼうちゅうざい)、や忌避剤(きひざい)などといった虫を寄せつけなくする薬剤も使用しています。

博物館では、地球環境や人体への影響(えいきょう)も考え、薬剤を使う量をできるだけ少なくし、かつ効果的に虫や力ビを確実に退治でき、多くの資料を次の世代に引き継ぐことができるように考えています。

図1オゾン層破壊物質を含むため、2004年末で使えなくなる文化財用の燻蒸剤

図1オゾン層破壊物質を含むため、2004年末で使えなくなる文化財用の燻蒸剤

 

図2窒素発生装置(中央の水色のもの)を使って箱に入った資料の殺虫処理をしているようす。

図2窒素発生装置(中央の水色のもの)を使って箱に入った資料の殺虫処理をしているようす。

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