アサリから真珠!【館蔵品紹介】

地学担当 中尾賢一

昨年11月のある日の夕方、九州の実家に帰省中だった私は、両親らとともに夕食のアサリのみそ汁を食べていました。あるアサリの身を口にしたとき、何かが歯にあたるのを感じました。ふつうの砂粒よりやや大きめで、すこしやわらかめの感触がありました。

もしやと思い慎重に口から出してみたところ、小粒ながら2つの真珠が出てきました。ひとつはほぼ球形ですが、もう一つは雪だるま状の形をしています(図1)。このアサリは近くの町のスーパーマーケットでパック入りで売られていたもので、有明海産と表示してありました。同時に食べた他の個体からは真珠は出てきませんでした。

図1 アサリから出てきた真珠 大きい方の長さ1.85mm

図1 アサリから出てきた真珠 大きい方の長さ1.85mm

真珠とは、貝の体中に貝殻と同じ成分が沈着してできるもので、貝殻の内面と真珠の表面とは同じ光沢をしています。また、どのような種類の貝にあってもおかしくないものです。ふつうの宝石の真珠は、アコヤガイ(真珠貝)の体内に、異物(核)と貝殻を分泌(ぶんぴつ)する組織(外套膜(がいとうまく))の切片を人工的に入れて作ります。アコヤガイ以外の貝(たとえばシロチョウガイなど)が利用されたり、稀(まれ)にはアワビ類のような巻貝からも宝石質の天然真珠がとれることがありますが、これらの貝はどれも殻の内面が真珠色に光っています。一方、貝の中には内面が真珠色の光沢をしていないものも多く、たとえばアサリ、シジミ類、ホタテガイ、マガキなどには真珠色の光沢はありません。仮にこのような貝が真珠を持っていたとしても真珠色にならないはずで、たしかに今回のアサリの真珠も殻の内面と同様の白っぽい色をしています。
この真珠を持っていたアサリは、殼が著しく変形しており、成長段階で大けがを負ったことがわかります(図2)。けがをしたさいに砂粒を体内に取り込み、それが核になって真珠ができたのかもしれません。

図2 真珠を持っていたアサリ 殼長32.4mm

図2 真珠を持っていたアサリ 殼長32.4mm

アサリやシジミ類で真珠が見つかったとの記事が、たまに新聞などで報道されることがあります。一般的なアサリ真珠の大きさについてはあまり情報がありませんが、半球形で径3.7mm、高さ2.8mmのものが報告されている(小菅、1966)ので、今回のものは大きい方ではないようです。

なお、真珠は貝殻同様、炭酸カルシウム(アサリの場合はアラゴナイト)と有機物からできています。宝石として扱われるものの中では例外的にやわらかい物質なので傷つきやすいうえ、強く噛めばおそらく簡単に割れてしまうでしょう。今回のような小粒のアサリ真珠の多くは、気づかれることもなく見過ごされているのかもしれません。
この真珠は、生物がつくる鉱物の一例ともいえるので、博物館の鉱物資料として登録しています。

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