ナノナビス類の化石(白亜紀二枚貝)【館蔵品紹介】
地学担当 辻野泰之
ナノナビス類は殻(から)が厚く、表面に強い放射肋(ほうしゃくろく)をもつフネガイ目シコロエガイ科の二枚貝です。日本では白亜紀(はくあき)前期から知られ、白亜紀末には絶滅しました。現在でも近い種類のフネガイ目の二枚貝は生存しており、お寿司屋さんなどでよく見かけるアカガイはその仲間の一つです。ナノナビス類は全国の白亜紀の海成層(かいせいそう)から多産し、現在までに少なくとも9種ほどが報告されています。
徳島県にも分布している白亜紀の地層の和泉(いずみ)層群や物部川(もののべがわ)層群からもナノナビス類は産出しています。特に白亜紀後期の和泉層群においては、産出する化石の中で、かなりの割合を占めます。淡路島(あわじしま)の和泉層群からはナノナビス・スプレンデンス(Nanonavis splendens)(図1)やナノナビス・アワジアヌス(Nanonavis awajianus)(図2)、ナノナビス・ブレビス(Nanonavis brevis)(図3)が1958年に大阪市立大学の市川浩一郎先生らによって新種として記載されました。ナノナビス・スプレンデンスは日本産ナノナビス類の中でも最も大きな種で、大きなものは、殻長(かくちょう)10cmを超えます。ナノナビス・アワジアヌスとナノナビス・ブレビスはナノナビス類の中では中~小型の種類であり、ナノナビス・アワジアヌスの方がナノナビス・ブレビスより殻頂(かくちょう)の突出が大きく、また殻の膨らみも強いのが特徴です。四国の和泉層群からはナノナビス・アマクセンシス(Nanonavis amakusensis)(図4)が産出しています。
図1大阪府貝塚市産ナノナビス・スプレンデンス
図2大阪府貝塚市産ナノナビス・アワジアワスと思われる標本
図3北海道中頓別町ナノナビス・ブレビス
図4香川県さぬき市産ナノナビス・アマクセンシス
た、白亜紀前期の物部川層群からナノナビス類の初期の種類であるナノナビス・ヨコヤマイ(Nanonavis yokoyamai)(図5)が産出します。ナノナビス・ヨコヤマイは横長で、小型な種類であり、白亜紀後期に出現する多くの種類はこの種から派生(はせい)していったと考えられています。この他にも全国の白亜紀の地層からは、ナノナビス・シュードカリナータ(Nanonavis pseudocarinata)やナノナビス・サハリネンシス(Nanonavis sachalinensis)(図6)、ナノナビス・ターギダ(Nanonavis turgida)、ナノナビス・エロンガタス(Nanonavis elongatus)が産出しています。
図5徳島県勝浦町産ナノナビス・ヨコヤマイ
図6北海道羽幌町産ナノナビス・サハリネンシス
参考文献
田代正之,1993.「化石図鑑」日本の白亜紀二枚貝.自費出版,1-307
辻野泰之,2004.香川県さぬき市兼割に分布する上部白亜紀系和泉層群の岩相と化石動物群.徳島県立博物館研究報告,14:1-13