Q.徳島にはどのような妖怪の話が伝わっていますか?【レファレンスQandA】
民俗担当 庄武憲子
A.妖怪(ようかい)は、ひとびとを、不安や恐怖にかりたてる、理解することのできない不思議な出来事や現象、またそうした現象をもたらすと考えられている超自然的な存在とされます。徳島県内の市町村史誌のうち34冊の中から、上記の定義に該当(がいとうい)する伝説を352例を集めてみたところ、圧倒的に多かったのは、狸(たぬき)の妖怪話で、113例ありました。ほか、蛇(へび)53例、天狗(てんぐ)16例、火のたま15例、河童(かっぱ)14例などが続きます。
三好市山城町上名にあるコナキジジイの像(写真提供:多喜田昌裕氏)
件数の多い狸がどのような妖怪として語られているかといいますと、夜間、見目のよい女性もしくは男性、大(高)入道、徳利など何かに化けて人をたぶらかしたり、驚かしたりするというのがおもになります。そのほか、狸に取り憑(つ)かれたという話などもあります。はっきりと狸の姿を見たわけでもないのに、恐ろしい目にあったり、不思議な現象が起きると、狸のしわざだと説明されてきたことが多いようです。
徳島で狸が妖怪として多く伝えられてきた理由ははっきりとわかりません。ただ、四国東部では狐(きつね)の生息数が全国と比較して少ないということに一因がありそうです。国際日本文化研究センターの「怪異・妖怪伝承データベース」(http://www.nichibun.ac.jp/youkaidb/)の検索ページには、全国の代表的な怪異・妖怪の呼称の項目にキツネがあげられており(ほかは、テング、タヌキ、カッパ、ヘビ、ダイジャ、オ二、タタリ、ヒノタマ、ユウレイ、ネコ、ムジナ)その件数2,009件と、代表項目の中で一番多いことが確認できます。徳島では、狐の数が少ないので、よその地域で、狐が妖怪として語られるところに、狸が当てはめられているということが考られるかと思います。
ほか、徳島独特の妖怪というのは少ないのですが、「ア力シャグマ」という一般的にいう座敷童子(ざしきわらし)に類似した妖怪、首のない胴体だけの「首切れ馬」などと呼ばれる妖怪などは、四国に多く伝わる妖怪のようです。
また、三好市山城町(みよししやましろちょう)に像があり、『ゲゲゲの鬼太郎』にも登場する「コナキジジイ」という妖怪については、赤子の泣き声をするという「ゴギャナキ」「オギャナキ」などと呼ばれる類似した妖怪の話が、四国内でちらほら伝えられているようです。けれども「コナキジジイ」として伝えられていたことが確認できるのは、現在は山城町だけとされますので、徳島独特の妖怪といえるかもしれません。
(民俗担当:庄武憲子)
〈参考文献〉
梅野光興 2004年「四国妖怪談義」(『四国民俗 第36・37合併号』)
高橋晋一編 2000年『阿波の狸文化』徳島大学総合科学部文化人類学研究室
多喜田昌裕 2001年『阿波の妖怪 児啼爺 調査報告』私家版